星座が示す、144通りの恋

第98話 毛抜きを渡す瞬間
(射手座君♂x牡牛座ちゃん♀)

 期末テストの前日、学校の屋上で、雨粒の名残がアスファルトに光っていた。歩幅を合わせるだけで、いつもの道が少し特別になる。
 『恋人』と口にするのに慣れない頃、祐斗は「行ってみよう!」と笑い、美咲は「うん」と小さく返す。
 今日は探しものを見つける。毛抜きが、二人の真ん中で目印みたいに置かれていた。
 二人が動き出すと、近くの友だちが「手伝う?」と声をかけてきた。祐斗は「新しいやり方、試す?」と返し、役割をぱっと分ける。
 美咲は相手のペースに合わせて待つ、苦手そうな子の隣へ回って、やり方を静かに見せた。中心にある毛抜きは順番を守らないと失敗する。焦った誰かが先に触れてしまい、少しだけやり直しになりかけた。
 そのとき祐斗が「一回止めよう」と手を上げ、美咲が「ここから」と指で道を作った。二人の声は違うのに、向いている先が同じだった。終わったあと、友だちは「息ぴったりだね」と笑い、二人は同時に顔を赤くした。
 帰り道の途中、祐斗は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。美咲は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。祐斗は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 美咲は歩きながら、ふと毛抜きを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。祐斗が「うん」と待つと、美咲は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道、祐斗は「次は美咲のやりたいことを先に聞く」と言った。美咲は少し考えてから、毛抜きを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の胸の奥が、ふっと軽くなった。
【終】