星座が示す、144通りの恋

第94話 ゴム手袋のせいにして
(蠍座君♂x山羊座ちゃん♀)

 新学期の一週間目、家の洗面所は静かで、空気が少しひんやりしていた。真由は指先をそっと押さえ、息を短く吐いた。
 宗介は椅子を引いて隣に座り、「最後まで付き合う」と言いかけて、声の大きさを半分にする。
 机の上にはゴム手袋。先生の説明より先に、宗介は真由の表情を見て、無理をさせたくないと思った。
 途中で真由が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、宗介は立ち止まる。
 実は宗介は昨日、同じゴム手袋をもう一つ用意していた。理由は、真由が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。宗介は「秘密、守る」と言いながら、そっと手渡した。
 真由は受け取り、しばらく黙ったあと、「やること、書き出す」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。宗介は「じゃ、今使おう」と前を向き、真由はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 真由が靴ひもを結び直している間、宗介は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、真由は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 真由は歩きながら、ふとゴム手袋を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。宗介が「うん」と待つと、真由は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道、宗介は「次は真由のやりたいことを先に聞く」と言った。真由は少し考えてから、ゴム手袋を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の時間が、少しだけ増えた。 真由は笑ってうなずき、宗介の袖を軽く引いた。
【終】