星座が示す、144通りの恋

第93話 枕で丸くなる角
(蠍座君♂x射手座ちゃん♀)

 冬の息が白い朝、放課後の空き教室で、薄い雲が流れていた。窓の外が早く暗くなり、部屋の中だけがやけに明るく見えた。
 二人だけの合図ができたばかりの頃、彩は足をすり合わせて寒さを追い払う。恭平は無言で枕を持ってきた。
 ただの道具のはずなのに、触れた瞬間、心までほぐれていく気がした。
 途中で彩が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、恭平は立ち止まる。
 実は恭平は昨日、同じ枕をもう一つ用意していた。理由は、彩が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。恭平は「秘密、守る」と言いながら、そっと手渡した。
 彩は受け取り、しばらく黙ったあと、「外の空気、吸おう」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。恭平は「じゃ、今使おう」と前を向き、彩はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 彩は歩きながら、ふと枕を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。恭平が「うん」と待つと、彩は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道の途中、恭平は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。彩は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。恭平は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 帰り道、恭平は「次は彩のやりたいことを先に聞く」と言った。彩は少し考えてから、枕を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の小さな合図が、ちゃんと届いた。 彩は笑ってうなずき、恭平の袖を軽く引いた。
【終】