星座が示す、144通りの恋

第90話 布団カバーが転がした笑い
(蠍座君♂x乙女座ちゃん♀)

 夏休みの初日、颯一の家のリビングで、日差しがまぶしかった。窓の外が早く暗くなり、部屋の中だけがやけに明るく見えた。
 付き合い始めてまだ数日、美里は足をすり合わせて寒さを追い払う。颯一は無言で布団カバーを持ってきた。
 ただの道具のはずなのに、触れた瞬間、心までほぐれていく気がした。
 友だちの家でくつろぐを始める前に、美里が立ち止まった。「ねえ、約束して」。颯一が見返すと、美里は布団カバーを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、美里は目をそらす。颯一は一度だけ深くうなずき、「秘密、守る」と言って布団カバーを受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。美里は目を細め、「道具はそろってる?」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。美里が「今日は助かった」と言うと、颯一は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 最後の確認をしていると、美里が「ありがとう」とはっきり言った。颯一は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で美里の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 帰り道、颯一は「次は美里のやりたいことを先に聞く」と言った。美里は少し考えてから、布団カバーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の笑い声が、しばらく耳に残った。 美里は笑ってうなずき、颯一の袖を軽く引いた。
【終】