星座が示す、144通りの恋

第87話 コーヒーフィルターで丸くなる角
(蠍座君♂x双子座ちゃん♀)

 四月の放課後、学校の屋上で、空気が少しひんやりしていた。肩が触れそうな距離で歩くと、見慣れた道が新しく見えた。
 一緒に帰る日が増えた頃、征矢は「本気でやろう」と笑い、美羽は「うん」と小さく返す。
 今日は探しものを見つける。机の上にコーヒーフィルターが置かれていた。今日はそれが鍵になる。
 初めてみると、思ったより早くつまずきが見えた。美羽が「ここ、引っかかる」と指さす。征矢は返事の代わりにうなずき、コーヒーフィルターを手に取った。
 征矢は一点をじっと見つめて集中する。力の入れ方を見せてから、美羽の手の上に自分の手をそっと重ね、「このくらい」と角度を示す。美羽は話しながら手も止めない、真剣な目で真似をした。
 うまくいった瞬間、美羽の口から「ねえ、これ知ってる?」がこぼれた。征矢は「でしょ」と笑い、でも目線は外して照れを隠す。二人の間に残ったのは、道具の音と、少し早い鼓動だった。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。美羽が「今日は助かった」と言うと、征矢は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 美羽は歩きながら、ふとコーヒーフィルターを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。征矢が「うん」と待つと、美羽は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道、征矢は「次は美羽のやりたいことを先に聞く」と言った。美羽は少し考えてから、コーヒーフィルターを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。
【終】