第83話 トイレ用洗剤が見ていた
(天秤座君♂x水瓶座ちゃん♀)
帰り道の夕焼け、部室で、夕方の匂いがしていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、蒼也は二人の意見の間を取る。葵衣はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は部室をきれいにする。手元にはトイレ用洗剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
部室をきれいにするを始める前に、葵衣が立ち止まった。「ねえ、約束して」。蒼也が見返すと、葵衣はトイレ用洗剤を両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、葵衣は目をそらす。蒼也は一度だけ深くうなずき、「半分こしよう」と言ってトイレ用洗剤を受け取った。
そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。葵衣は目を細め、「これ、アプリでできる」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。葵衣が「今日は助かった」と言うと、蒼也は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
葵衣は歩きながら、ふとトイレ用洗剤を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。蒼也が「うん」と待つと、葵衣は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
帰り道、蒼也は「次は葵衣のやりたいことを先に聞く」と言った。葵衣は少し考えてから、トイレ用洗剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の視線が合うたび、心が落ち着いた。
【終】
(天秤座君♂x水瓶座ちゃん♀)
帰り道の夕焼け、部室で、夕方の匂いがしていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、蒼也は二人の意見の間を取る。葵衣はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は部室をきれいにする。手元にはトイレ用洗剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
部室をきれいにするを始める前に、葵衣が立ち止まった。「ねえ、約束して」。蒼也が見返すと、葵衣はトイレ用洗剤を両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、葵衣は目をそらす。蒼也は一度だけ深くうなずき、「半分こしよう」と言ってトイレ用洗剤を受け取った。
そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。葵衣は目を細め、「これ、アプリでできる」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。葵衣が「今日は助かった」と言うと、蒼也は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
葵衣は歩きながら、ふとトイレ用洗剤を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。蒼也が「うん」と待つと、葵衣は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
帰り道、蒼也は「次は葵衣のやりたいことを先に聞く」と言った。葵衣は少し考えてから、トイレ用洗剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の視線が合うたび、心が落ち着いた。
【終】


