星座が示す、144通りの恋

第82話 スポンジラックが見ていた
(天秤座君♂x山羊座ちゃん♀)

 期末テストの前日、体育館の裏口で、薄い雲が流れていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
 二人だけの合図ができたばかりの頃、怜司は見た目を整えて満足する。美沙はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
 今日の担当は台所の汚れを落とす。手元にはスポンジラックがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
 二人が動き出すと、近くの友だちが「手伝う?」と声をかけてきた。怜司は「それなら両方できる」と返し、役割をぱっと分ける。
 美沙は相手の不安を言葉で整える、苦手そうな子の隣へ回って、やり方を静かに見せた。中心にあるスポンジラックは順番を守らないと失敗する。焦った誰かが先に触れてしまい、少しだけやり直しになりかけた。
 そのとき怜司が「一回止めよう」と手を上げ、美沙が「ここから」と指で道を作った。二人の声は違うのに、向いている先が同じだった。終わったあと、友だちは「息ぴったりだね」と笑い、二人は同時に顔を赤くした。
 美沙が靴ひもを結び直している間、怜司は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、美沙は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 最後の確認をしていると、美沙が「ありがとう」とはっきり言った。怜司は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で美沙の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 帰り道、怜司は「次は美沙のやりたいことを先に聞く」と言った。美沙は少し考えてから、スポンジラックを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の時間が、少しだけ増えた。
【終】