星座が示す、144通りの恋

第79話 スマホケースの約束
(天秤座君♂x天秤座ちゃん♀)

 日曜の買い物の帰り、駅前の本屋の前で、夕方の匂いがしていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
 一緒に帰る日が増えた頃、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
 今日は提出物の準備をする。そこにスマホケースが出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
 二人が動き出すと、近くの友だちが「手伝う?」と声をかけてきた。直斗は「それなら両方できる」と返し、役割をぱっと分ける。
 彩音は相手の言い分を最後まで聞く、苦手そうな子の隣へ回って、やり方を静かに見せた。中心にあるスマホケースは順番を守らないと失敗する。焦った誰かが先に触れてしまい、少しだけやり直しになりかけた。
 そのとき直斗が「一回止めよう」と手を上げ、彩音が「ここから」と指で道を作った。二人の声は違うのに、向いている先が同じだった。終わったあと、友だちは「息ぴったりだね」と笑い、二人は同時に顔を赤くした。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。彩音が「今日は助かった」と言うと、直斗は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 彩音が靴ひもを結び直している間、直斗は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、彩音は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 帰り道、直斗は「次は彩音のやりたいことを先に聞く」と言った。彩音は少し考えてから、スマホケースを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人のそれだけで、今日は十分だと思えた。
【終】