星座が示す、144通りの恋

第78話 マグネットの約束
(天秤座君♂x乙女座ちゃん♀)

 朝練のあと、図書室で、薄い雲が流れていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
 二人だけの合図ができたばかりの頃、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
 今日はプリントを整える。そこにマグネットが出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
 作業の途中、尚人のスマホが鳴った。画面の通知を見た紗季乃は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
 尚人は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこでマグネットを持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
 紗季乃は深呼吸して、角をそろえて並べる。二人で手を動かし、マグネットが役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に尚人が「送れてなかった」と画面を見せると、紗季乃は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
 片づけの最中、マグネットが机から転がりそうになり、尚人が反射で押さえた。その手の速さに紗季乃が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。尚人は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 片づけの最中、マグネットが机から転がりそうになり、尚人が反射で押さえた。その手の速さに紗季乃が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。尚人は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、尚人は「次は紗季乃のやりたいことを先に聞く」と言った。紗季乃は少し考えてから、マグネットを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の笑い声が、しばらく耳に残った。
【終】