星座が示す、144通りの恋

第74話 マグカップで丸くなる角
(天秤座君♂x牡牛座ちゃん♀)

 冬の息が白い朝、栞の家の台所で、校庭に風が走っていた。栞はエプロンのひもを結び直し、俊希は袖をまくった。
 二人だけの合図ができたばかりの頃、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは温かい飲み物を入れる。
 鍵になるのがマグカップで、手順がずれると味も形も崩れる。栞は「できるかな」と首をかしげた。
 温かい飲み物を入れるを始める前に、栞が立ち止まった。「ねえ、約束して」。俊希が見返すと、栞はマグカップを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、栞は目をそらす。俊希は一度だけ深くうなずき、「半分こしよう」と言ってマグカップを受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。栞は目を細め、「ちゃんと確かめてから」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 片づけの最中、マグカップが机から転がりそうになり、俊希が反射で押さえた。その手の速さに栞が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。俊希は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 栞が靴ひもを結び直している間、俊希は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、栞は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 帰り道、俊希は「次は栞のやりたいことを先に聞く」と言った。栞は少し考えてから、マグカップを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の胸の奥が、ふっと軽くなった。 栞は笑ってうなずき、俊希の袖を軽く引いた。
【終】