星座が示す、144通りの恋

第68話 絆創膏とふたりの手
(乙女座君♂x蠍座ちゃん♀)

 土曜の昼下がり、保健室は静かで、夕方の匂いがしていた。小夜は指先をそっと押さえ、息を短く吐いた。
 雅人は椅子を引いて隣に座り、「ここ、順番が大事」と言いかけて、声の大きさを半分にする。
 机の上には絆創膏。先生の説明より先に、雅人は小夜の表情を見て、無理をさせたくないと思った。
 作業の途中、雅人のスマホが鳴った。画面の通知を見た小夜は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
 雅人は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで絆創膏を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
 小夜は深呼吸して、必要なことだけ短く言う。二人で手を動かし、絆創膏が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に雅人が「送れてなかった」と画面を見せると、小夜は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
 片づけの最中、絆創膏が机から転がりそうになり、雅人が反射で押さえた。その手の速さに小夜が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。雅人は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 最後の確認をしていると、小夜が「ありがとう」とはっきり言った。雅人は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で小夜の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 帰り道、雅人は「次は小夜のやりたいことを先に聞く」と言った。小夜は少し考えてから、絆創膏を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の次の約束が、自然に浮かんだ。
【終】