星座が示す、144通りの恋

第63話 玄関マットと帰り道
(乙女座君♂x双子座ちゃん♀)

 四月の放課後、文哉の家のリビングで、日差しがまぶしかった。窓の外が早く暗くなり、部屋の中だけがやけに明るく見えた。
 『恋人』という言葉がまだむずがゆい頃、夏帆は足をすり合わせて寒さを追い払う。文哉は無言で玄関マットを持ってきた。
 ただの道具のはずなのに、触れた瞬間、心までほぐれていく気がした。
 寒さをしのぐを始める前に、夏帆が立ち止まった。「ねえ、約束して」。文哉が見返すと、夏帆は玄関マットを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、夏帆は目をそらす。文哉は一度だけ深くうなずき、「チェックしていい?」と言って玄関マットを受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。夏帆は目を細め、「じゃあ作戦会議!」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 夏帆は歩きながら、ふと玄関マットを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。文哉が「うん」と待つと、夏帆は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 夏帆は歩きながら、ふと玄関マットを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。文哉が「うん」と待つと、夏帆は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道、文哉は「次は夏帆のやりたいことを先に聞く」と言った。夏帆は少し考えてから、玄関マットを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。 夏帆は笑ってうなずき、文哉の袖を軽く引いた。
【終】