第62話 キーホルダーで近づく距離
(乙女座君♂x牡牛座ちゃん♀)
五月の雨上がりの朝、駅前の本屋の前で、薄い雲が流れていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
告白の返事をした翌週、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
今日は宿題をまとめる。そこにキーホルダーが出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
作業の途中、奏汰のスマホが鳴った。画面の通知を見た和花は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
奏汰は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこでキーホルダーを持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
和花は深呼吸して、同じ場所を丁寧に拭き直す。二人で手を動かし、キーホルダーが役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に奏汰が「送れてなかった」と画面を見せると、和花は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
和花が靴ひもを結び直している間、奏汰は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、和花は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
最後の確認をしていると、和花が「ありがとう」とはっきり言った。奏汰は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で和花の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道、奏汰は「次は和花のやりたいことを先に聞く」と言った。和花は少し考えてから、キーホルダーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の胸の奥が、ふっと軽くなった。
【終】
(乙女座君♂x牡牛座ちゃん♀)
五月の雨上がりの朝、駅前の本屋の前で、薄い雲が流れていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
告白の返事をした翌週、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
今日は宿題をまとめる。そこにキーホルダーが出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
作業の途中、奏汰のスマホが鳴った。画面の通知を見た和花は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
奏汰は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこでキーホルダーを持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
和花は深呼吸して、同じ場所を丁寧に拭き直す。二人で手を動かし、キーホルダーが役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に奏汰が「送れてなかった」と画面を見せると、和花は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
和花が靴ひもを結び直している間、奏汰は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、和花は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
最後の確認をしていると、和花が「ありがとう」とはっきり言った。奏汰は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で和花の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道、奏汰は「次は和花のやりたいことを先に聞く」と言った。和花は少し考えてから、キーホルダーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の胸の奥が、ふっと軽くなった。
【終】


