星座が示す、144通りの恋

第60話 シャンプーで丸くなる角
(獅子座君♂x魚座ちゃん♀)

 土曜の昼下がり、近所のドラッグストア前は静かで、日差しがまぶしかった。玲衣は指先をそっと押さえ、息を短く吐いた。
 蒼空は椅子を引いて隣に座り、「任せて」と言いかけて、声の大きさを半分にする。
 机の上にはシャンプー。先生の説明より先に、蒼空は玲衣の表情を見て、無理をさせたくないと思った。
 途中で玲衣が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、蒼空は立ち止まる。
 実は蒼空は昨日、同じシャンプーをもう一つ用意していた。理由は、玲衣が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。蒼空は「うまくいくに決まってる」と言いながら、そっと手渡した。
 玲衣は受け取り、しばらく黙ったあと、「気持ち、わかる」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。蒼空は「じゃ、今使おう」と前を向き、玲衣はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 最後の確認をしていると、玲衣が「ありがとう」とはっきり言った。蒼空は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で玲衣の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 片づけの最中、シャンプーが机から転がりそうになり、蒼空が反射で押さえた。その手の速さに玲衣が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。蒼空は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、蒼空は「次は玲衣のやりたいことを先に聞く」と言った。玲衣は少し考えてから、シャンプーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言いかけた言葉が、ちゃんと形になった。 玲衣は笑ってうなずき、蒼空の袖を軽く引いた。
【終】