星座が示す、144通りの恋

第59話 キッチンタイマーが見ていた
(獅子座君♂x水瓶座ちゃん♀)

 四月の放課後、通学路で、雨粒の名残がアスファルトに光っていた。並んで歩くと、いつもの道でも景色が少し変わる。
 二人だけの合図ができたばかりの頃、剛は「任せて」と笑い、真央は「うん」と小さく返す。
 今日は一緒に練習する。机の上のキッチンタイマーが、二人だけの合図になっていた。
 やってみると、すぐに小さな困りごとが顔を出した。真央が「ここ、引っかかる」と指さす。剛は返事の代わりにうなずき、キッチンタイマーを手に取った。
 剛は堂々と宣言して動く。力の入れ方を見せてから、真央の手の上に自分の手をそっと重ね、「このくらい」と角度を示す。真央は新しい道具や仕組みを試す、真剣な目で真似をした。
 うまくいった瞬間、真央の口から「それ、別の方法あるよ」がこぼれた。剛は「でしょ」と笑い、でも目線は外して照れを隠す。二人の間に残ったのは、道具の音と、少し早い鼓動だった。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。真央が「今日は助かった」と言うと、剛は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 帰り道の途中、剛は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。真央は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。剛は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 帰り道、剛は「次は真央のやりたいことを先に聞く」と言った。真央は少し考えてから、キッチンタイマーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の視線が合うたび、心が落ち着いた。
【終】