星座が示す、144通りの恋

第5話 ヘアゴムが見ていた
(牡羊座君♂x獅子座ちゃん♀)

 冬の息が白い朝、公園のベンチで、日差しがまぶしかった。同じ帰り道でも、隣に誰かがいるだけで色が変わる。
 付き合い始めて間もなく、貴臣は「よし、今やろう」と笑い、莉々花は「うん」と小さく返す。
 今日は頼まれごとを終える。二人の間にヘアゴムがそっと置かれていた。それが始まりの合図だ。
 手を動かした途端、小さな困りごとが見つかった。莉々花が「ここ、引っかかる」と指さす。貴臣は返事の代わりにうなずき、ヘアゴムを手に取った。
 貴臣は先に立って歩き出す。力の入れ方を見せてから、莉々花の手の上に自分の手をそっと重ね、「このくらい」と角度を示す。莉々花は堂々と宣言して動く、真剣な目で真似をした。
 うまくいった瞬間、莉々花の口から「任せて」がこぼれた。貴臣は「でしょ」と笑い、でも目線は外して照れを隠す。二人の間に残ったのは、道具の音と、少し早い鼓動だった。
 最後の確認をしていると、莉々花が「ありがとう」とはっきり言った。貴臣は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で莉々花の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 莉々花は歩きながら、ふとヘアゴムを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。貴臣が「うん」と待つと、莉々花は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道、貴臣は「次は莉々花のやりたいことを先に聞く」と言った。莉々花は少し考えてから、ヘアゴムを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の同じ方向へ進む気持ちが、静かに重なった。 莉々花は笑ってうなずき、貴臣の袖を軽く引いた。
【終】