星座が示す、144通りの恋

第55話 洗濯ばさみの約束
(獅子座君♂x天秤座ちゃん♀)

 朝練のあと、図書室の前で、空気が少しひんやりしていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
 一緒に帰る日が増えた頃、拓海は人前でも手を振って呼びかける。結希はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
 今日は掃除当番。手元には洗濯ばさみがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
 当番の掃除を終わらせるを始める前に、結希が立ち止まった。「ねえ、約束して」。拓海が見返すと、結希は洗濯ばさみを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、結希は目をそらす。拓海は一度だけ深くうなずき、「うまくいくに決まってる」と言って洗濯ばさみを受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。結希は目を細め、「それなら両方できる」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 片づけの最中、洗濯ばさみが机から転がりそうになり、拓海が反射で押さえた。その手の速さに結希が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。拓海は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道の途中、拓海は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。結希は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。拓海は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 帰り道、拓海は「次は結希のやりたいことを先に聞く」と言った。結希は少し考えてから、洗濯ばさみを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人のそれだけで、今日は十分だと思えた。
【終】