第49話 キッチンペーパーのせいにして
(獅子座君♂x牡羊座ちゃん♀)
朝練のあと、部室で、薄い雲が流れていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、輝翔は人前でも手を振って呼びかける。碧依はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は玄関のにおいを消す。手元にはキッチンペーパーがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
途中で碧依が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、輝翔は立ち止まる。
実は輝翔は昨日、同じキッチンペーパーをもう一つ用意していた。理由は、碧依が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。輝翔は「うまくいくに決まってる」と言いながら、そっと手渡した。
碧依は受け取り、しばらく黙ったあと、「先に動いたほうが早い」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。輝翔は「じゃ、今使おう」と前を向き、碧依はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、碧依が「ありがとう」とはっきり言った。輝翔は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で碧依の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道の途中、輝翔は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。碧依は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。輝翔は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
帰り道、輝翔は「次は碧依のやりたいことを先に聞く」と言った。碧依は少し考えてから、キッチンペーパーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の距離は、前よりも少しだけ縮まった。
【終】
(獅子座君♂x牡羊座ちゃん♀)
朝練のあと、部室で、薄い雲が流れていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、輝翔は人前でも手を振って呼びかける。碧依はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は玄関のにおいを消す。手元にはキッチンペーパーがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
途中で碧依が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、輝翔は立ち止まる。
実は輝翔は昨日、同じキッチンペーパーをもう一つ用意していた。理由は、碧依が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。輝翔は「うまくいくに決まってる」と言いながら、そっと手渡した。
碧依は受け取り、しばらく黙ったあと、「先に動いたほうが早い」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。輝翔は「じゃ、今使おう」と前を向き、碧依はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、碧依が「ありがとう」とはっきり言った。輝翔は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で碧依の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道の途中、輝翔は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。碧依は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。輝翔は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
帰り道、輝翔は「次は碧依のやりたいことを先に聞く」と言った。碧依は少し考えてから、キッチンペーパーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の距離は、前よりも少しだけ縮まった。
【終】


