星座が示す、144通りの恋

第4話 台所用洗剤で近づく距離
(牡羊座君♂x蟹座ちゃん♀)

 四月の放課後、部室で、薄い雲が流れていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
 交際が始まって日が浅く、陸央は思いついたらすぐ手を伸ばす。里緒はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
 今日は掃除当番。手元には台所用洗剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
 作業の途中、陸央のスマホが鳴った。画面の通知を見た里緒は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
 陸央は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで台所用洗剤を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
 里緒は深呼吸して、忘れ物をそっと差し出す。二人で手を動かし、台所用洗剤が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に陸央が「送れてなかった」と画面を見せると、里緒は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
 里緒が靴ひもを結び直している間、陸央は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、里緒は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 片づけの最中、台所用洗剤が机から転がりそうになり、陸央が反射で押さえた。その手の速さに里緒が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。陸央は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、陸央は「次は里緒のやりたいことを先に聞く」と言った。里緒は少し考えてから、台所用洗剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の帰り道が、いつもより明るく見えた。
【終】