第45話 小銭入れのせいにして
(蟹座君♂x射手座ちゃん♀)
新学期の一週間目、学校の屋上で、薄い雲が流れていた。歩幅を合わせるだけで、いつもの道が少し特別になる。
『恋人』と口にするのに慣れない頃、航平は「寒くない?」と笑い、莉子は「うん」と小さく返す。
今日は探しものを見つける。小銭入れが、二人の真ん中で目印みたいに置かれていた。
途中で莉子が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、航平は立ち止まる。
実は航平は昨日、同じ小銭入れをもう一つ用意していた。理由は、莉子が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。航平は「無理してない?」と言いながら、そっと手渡した。
莉子は受け取り、しばらく黙ったあと、「外の空気、吸おう」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。航平は「じゃ、今使おう」と前を向き、莉子はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、莉子が「ありがとう」とはっきり言った。航平は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で莉子の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
莉子が靴ひもを結び直している間、航平は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、莉子は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
帰り道、航平は「次は莉子のやりたいことを先に聞く」と言った。莉子は少し考えてから、小銭入れを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の小さな合図が、ちゃんと届いた。 莉子は笑ってうなずき、航平の袖を軽く引いた。
【終】
(蟹座君♂x射手座ちゃん♀)
新学期の一週間目、学校の屋上で、薄い雲が流れていた。歩幅を合わせるだけで、いつもの道が少し特別になる。
『恋人』と口にするのに慣れない頃、航平は「寒くない?」と笑い、莉子は「うん」と小さく返す。
今日は探しものを見つける。小銭入れが、二人の真ん中で目印みたいに置かれていた。
途中で莉子が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、航平は立ち止まる。
実は航平は昨日、同じ小銭入れをもう一つ用意していた。理由は、莉子が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。航平は「無理してない?」と言いながら、そっと手渡した。
莉子は受け取り、しばらく黙ったあと、「外の空気、吸おう」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。航平は「じゃ、今使おう」と前を向き、莉子はその背中に小さく「うん」と重ねた。
最後の確認をしていると、莉子が「ありがとう」とはっきり言った。航平は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で莉子の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
莉子が靴ひもを結び直している間、航平は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、莉子は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
帰り道、航平は「次は莉子のやりたいことを先に聞く」と言った。莉子は少し考えてから、小銭入れを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の小さな合図が、ちゃんと届いた。 莉子は笑ってうなずき、航平の袖を軽く引いた。
【終】


