星座が示す、144通りの恋

第41話 綿棒の約束
(蟹座君♂x獅子座ちゃん♀)

 帰り道の夕焼け、家の洗面所は静かで、空気が少しひんやりしていた。響子は指先をそっと押さえ、息を短く吐いた。
 大河は椅子を引いて隣に座り、「それ、私が持つよ」と言いかけて、声の大きさを半分にする。
 机の上には綿棒。先生の説明より先に、大河は響子の表情を見て、無理をさせたくないと思った。
 途中で響子が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、大河は立ち止まる。
 実は大河は昨日、同じ綿棒をもう一つ用意していた。理由は、響子が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。大河は「無理してない?」と言いながら、そっと手渡した。
 響子は受け取り、しばらく黙ったあと、「うまくいくに決まってる」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。大河は「じゃ、今使おう」と前を向き、響子はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 最後の確認をしていると、響子が「ありがとう」とはっきり言った。大河は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で響子の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 響子が靴ひもを結び直している間、大河は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、響子は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 帰り道、大河は「次は響子のやりたいことを先に聞く」と言った。響子は少し考えてから、綿棒を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の同じ方向へ進む気持ちが、静かに重なった。 響子は笑ってうなずき、大河の袖を軽く引いた。
【終】