第40話 スリッパで近づく距離
(蟹座君♂x蟹座ちゃん♀)
土曜の昼下がり、温志の家のリビングで、薄い雲が流れていた。窓の外が早く暗くなり、部屋の中だけがやけに明るく見えた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、日和は足をすり合わせて寒さを追い払う。温志は無言でスリッパを持ってきた。
ただの道具のはずなのに、触れた瞬間、心までほぐれていく気がした。
二人が動き出すと、近くの友だちが「手伝う?」と声をかけてきた。温志は「それ、私が持つよ」と返し、役割をぱっと分ける。
日和は背中を軽くなでる、苦手そうな子の隣へ回って、やり方を静かに見せた。中心にあるスリッパは順番を守らないと失敗する。焦った誰かが先に触れてしまい、少しだけやり直しになりかけた。
そのとき温志が「一回止めよう」と手を上げ、日和が「ここから」と指で道を作った。二人の声は違うのに、向いている先が同じだった。終わったあと、友だちは「息ぴったりだね」と笑い、二人は同時に顔を赤くした。
片づけの最中、スリッパが机から転がりそうになり、温志が反射で押さえた。その手の速さに日和が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。温志は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
日和は歩きながら、ふとスリッパを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。温志が「うん」と待つと、日和は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
帰り道、温志は「次は日和のやりたいことを先に聞く」と言った。日和は少し考えてから、スリッパを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の帰り道が、いつもより明るく見えた。
【終】
(蟹座君♂x蟹座ちゃん♀)
土曜の昼下がり、温志の家のリビングで、薄い雲が流れていた。窓の外が早く暗くなり、部屋の中だけがやけに明るく見えた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、日和は足をすり合わせて寒さを追い払う。温志は無言でスリッパを持ってきた。
ただの道具のはずなのに、触れた瞬間、心までほぐれていく気がした。
二人が動き出すと、近くの友だちが「手伝う?」と声をかけてきた。温志は「それ、私が持つよ」と返し、役割をぱっと分ける。
日和は背中を軽くなでる、苦手そうな子の隣へ回って、やり方を静かに見せた。中心にあるスリッパは順番を守らないと失敗する。焦った誰かが先に触れてしまい、少しだけやり直しになりかけた。
そのとき温志が「一回止めよう」と手を上げ、日和が「ここから」と指で道を作った。二人の声は違うのに、向いている先が同じだった。終わったあと、友だちは「息ぴったりだね」と笑い、二人は同時に顔を赤くした。
片づけの最中、スリッパが机から転がりそうになり、温志が反射で押さえた。その手の速さに日和が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。温志は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
日和は歩きながら、ふとスリッパを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。温志が「うん」と待つと、日和は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
帰り道、温志は「次は日和のやりたいことを先に聞く」と言った。日和は少し考えてから、スリッパを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の帰り道が、いつもより明るく見えた。
【終】


