星座が示す、144通りの恋

第35話 まな板のせいにして
(双子座君♂x水瓶座ちゃん♀)

 朝練のあと、家庭科室で、薄い雲が流れていた。透子はエプロンのひもを結び直し、理人は袖をまくった。
 一緒に帰る日が増えた頃、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは夕飯の手伝いをする。
 鍵になるのがまな板で、手順がずれると味も形も崩れる。透子は「できるかな」と首をかしげた。
 夕飯の手伝いをするを始める前に、透子が立ち止まった。「ねえ、約束して」。理人が見返すと、透子はまな板を両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、透子は目をそらす。理人は一度だけ深くうなずき、「それ、面白くない?」と言ってまな板を受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。透子は目を細め、「これ、アプリでできる」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 帰り道の途中、理人は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。透子は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。理人は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 片づけの最中、まな板が机から転がりそうになり、理人が反射で押さえた。その手の速さに透子が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。理人は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、理人は「次は透子のやりたいことを先に聞く」と言った。透子は少し考えてから、まな板を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の視線が合うたび、心が落ち着いた。 透子は笑ってうなずき、理人の袖を軽く引いた。
【終】