星座が示す、144通りの恋

第34話 鍵で丸くなる角
(双子座君♂x山羊座ちゃん♀)

 朝練のあと、駅前の本屋の前で、薄い雲が流れていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
 『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
 今日は忘れ物を探す。そこに鍵が出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
 手を動かした途端、小さな困りごとが見つかった。理沙が「ここ、引っかかる」と指さす。光希は返事の代わりにうなずき、鍵を手に取った。
 光希は話しながら手も止めない。力の入れ方を見せてから、理沙の手の上に自分の手をそっと重ね、「このくらい」と角度を示す。理沙は黙って段取りを作る、真剣な目で真似をした。
 うまくいった瞬間、理沙の口から「時間を決めよう」がこぼれた。光希は「でしょ」と笑い、でも目線は外して照れを隠す。二人の間に残ったのは、道具の音と、少し早い鼓動だった。
 片づけの最中、鍵が机から転がりそうになり、光希が反射で押さえた。その手の速さに理沙が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。光希は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道の途中、光希は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。理沙は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。光希は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 帰り道、光希は「次は理沙のやりたいことを先に聞く」と言った。理沙は少し考えてから、鍵を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の時間が、少しだけ増えた。
【終】