第31話 定期入れと帰り道
(双子座君♂x天秤座ちゃん♀)
期末テストの前日、教室の窓側で、夕方の匂いがしていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
今日はプリントを整える。そこに定期入れが出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
作業の途中、悠斗のスマホが鳴った。画面の通知を見た紗良は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
悠斗は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで定期入れを持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
紗良は深呼吸して、周りに声をかけて調整する。二人で手を動かし、定期入れが役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に悠斗が「送れてなかった」と画面を見せると、紗良は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。紗良が「今日は助かった」と言うと、悠斗は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
紗良が靴ひもを結び直している間、悠斗は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、紗良は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
帰り道、悠斗は「次は紗良のやりたいことを先に聞く」と言った。紗良は少し考えてから、定期入れを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人のそれだけで、今日は十分だと思えた。
【終】
(双子座君♂x天秤座ちゃん♀)
期末テストの前日、教室の窓側で、夕方の匂いがしていた。机の上にはプリントが積まれ、チャイムの余韻だけが残っていた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、二人はまだ人前で手をつなぐのが得意じゃない。けれど隣に座る距離だけは、自然に近い。
今日はプリントを整える。そこに定期入れが出てくる。小さいのに、あるとないとで安心感が違う。
作業の途中、悠斗のスマホが鳴った。画面の通知を見た紗良は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
悠斗は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで定期入れを持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
紗良は深呼吸して、周りに声をかけて調整する。二人で手を動かし、定期入れが役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に悠斗が「送れてなかった」と画面を見せると、紗良は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。紗良が「今日は助かった」と言うと、悠斗は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
紗良が靴ひもを結び直している間、悠斗は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、紗良は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
帰り道、悠斗は「次は紗良のやりたいことを先に聞く」と言った。紗良は少し考えてから、定期入れを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人のそれだけで、今日は十分だと思えた。
【終】


