星座が示す、144通りの恋

第30話 トイレットペーパーが見ていた
(双子座君♂x乙女座ちゃん♀)

 朝練のあと、体育館の裏口で、夕方の匂いがしていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
 交際が始まって日が浅く、蓮司は周りを見て情報を集める。乃々美はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
 今日の担当は部室をきれいにする。手元にはトイレットペーパーがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
 二人が動き出すと、近くの友だちが「手伝う?」と声をかけてきた。蓮司は「じゃあ作戦会議!」と返し、役割をぱっと分ける。
 乃々美は相手の苦手をそっと補う、苦手そうな子の隣へ回って、やり方を静かに見せた。中心にあるトイレットペーパーは順番を守らないと失敗する。焦った誰かが先に触れてしまい、少しだけやり直しになりかけた。
 そのとき蓮司が「一回止めよう」と手を上げ、乃々美が「ここから」と指で道を作った。二人の声は違うのに、向いている先が同じだった。終わったあと、友だちは「息ぴったりだね」と笑い、二人は同時に顔を赤くした。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。乃々美が「今日は助かった」と言うと、蓮司は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 片づけの最中、トイレットペーパーが机から転がりそうになり、蓮司が反射で押さえた。その手の速さに乃々美が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。蓮司は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、蓮司は「次は乃々美のやりたいことを先に聞く」と言った。乃々美は少し考えてから、トイレットペーパーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の笑い声が、しばらく耳に残った。
【終】