星座が示す、144通りの恋

第26話 充電ケーブルと帰り道
(双子座君♂x牡牛座ちゃん♀)

 土曜の昼下がり、駅の改札横で、日差しがまぶしかった。ポケットの中で小さな振動が続き、二人の会話が途切れた。
 交際が始まったばかりで、千紘は画面を見て「ごめん、ここで止まりそう」と困り顔。涼真は立ち止まり、鞄の中を探る。
 助けになるのが充電ケーブル。機械のことが苦手でも、二人なら何とかなる気がした。
 音楽を一緒に聞き始める前に、千紘が立ち止まった。「ねえ、約束して」。涼真が見返すと、千紘は充電ケーブルを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、千紘は目をそらす。涼真は一度だけ深くうなずき、「それ、面白くない?」と言って充電ケーブルを受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。千紘は目を細め、「ちゃんと確かめてから」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 帰り道の途中、涼真は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。千紘は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。涼真は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。千紘が「今日は助かった」と言うと、涼真は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 帰り道、涼真は「次は千紘のやりたいことを先に聞く」と言った。千紘は少し考えてから、充電ケーブルを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の胸の奥が、ふっと軽くなった。
【終】