星座が示す、144通りの恋

第25話 電気ケトルで近づく距離
(双子座君♂x牡羊座ちゃん♀)

 五月の雨上がりの朝、真白の家の台所で、夕方の匂いがしていた。真白はエプロンのひもを結び直し、晴翔は袖をまくった。
 告白の返事を伝えた次の週、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは温かい飲み物を入れる。
 鍵になるのが電気ケトルで、手順がずれると味も形も崩れる。真白は「できるかな」と首をかしげた。
 温かい飲み物を入れるを始める前に、真白が立ち止まった。「ねえ、約束して」。晴翔が見返すと、真白は電気ケトルを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、真白は目をそらす。晴翔は一度だけ深くうなずき、「それ、面白くない?」と言って電気ケトルを受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。真白は目を細め、「迷うより一歩だ」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 帰り道の途中、晴翔は急に立ち止まり、ポケットから小さな紙を出した。そこには『今日のよかったところ』が三つ書いてある。真白は吹き出し、「宿題みたい」と笑う。晴翔は「忘れたくないだけ」と言い、紙を二人の間に挟んだ。
 片づけの最中、電気ケトルが机から転がりそうになり、晴翔が反射で押さえた。その手の速さに真白が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。晴翔は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、晴翔は「次は真白のやりたいことを先に聞く」と言った。真白は少し考えてから、電気ケトルを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の距離は、前よりも少しだけ縮まった。
【終】