第21話 トイレブラシで近づく距離
(牡牛座君♂x射手座ちゃん♀)
朝練のあと、図書室の前で、日差しがまぶしかった。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、和也は同じ場所を丁寧に拭き直す。真凜はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は部室をきれいにする。手元にはトイレブラシがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
部室をきれいにするを始める前に、真凜が立ち止まった。「ねえ、約束して」。和也が見返すと、真凜はトイレブラシを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、真凜は目をそらす。和也は一度だけ深くうなずき、「一つずつ片づけよう」と言ってトイレブラシを受け取った。
そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。真凜は目を細め、「新しいやり方、試す?」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
最後の確認をしていると、真凜が「ありがとう」とはっきり言った。和也は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で真凜の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
片づけの最中、トイレブラシが机から転がりそうになり、和也が反射で押さえた。その手の速さに真凜が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。和也は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
帰り道、和也は「次は真凜のやりたいことを先に聞く」と言った。真凜は少し考えてから、トイレブラシを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の小さな合図が、ちゃんと届いた。
【終】
(牡牛座君♂x射手座ちゃん♀)
朝練のあと、図書室の前で、日差しがまぶしかった。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、和也は同じ場所を丁寧に拭き直す。真凜はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は部室をきれいにする。手元にはトイレブラシがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
部室をきれいにするを始める前に、真凜が立ち止まった。「ねえ、約束して」。和也が見返すと、真凜はトイレブラシを両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、真凜は目をそらす。和也は一度だけ深くうなずき、「一つずつ片づけよう」と言ってトイレブラシを受け取った。
そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。真凜は目を細め、「新しいやり方、試す?」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
最後の確認をしていると、真凜が「ありがとう」とはっきり言った。和也は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で真凜の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
片づけの最中、トイレブラシが机から転がりそうになり、和也が反射で押さえた。その手の速さに真凜が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。和也は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
帰り道、和也は「次は真凜のやりたいことを先に聞く」と言った。真凜は少し考えてから、トイレブラシを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の小さな合図が、ちゃんと届いた。
【終】


