星座が示す、144通りの恋

第20話 茶こしで丸くなる角
(牡牛座君♂x蠍座ちゃん♀)

 朝練のあと、商店街の惣菜コーナー前で、雨粒の名残がアスファルトに光っていた。夕莉はエプロンのひもを結び直し、泰雅は袖をまくった。
 付き合い始めて間もなく、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは温かい飲み物を入れる。
 鍵になるのが茶こしで、手順がずれると味も形も崩れる。夕莉は「できるかな」と首をかしげた。
 途中で夕莉が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、泰雅は立ち止まる。
 実は泰雅は昨日、同じ茶こしをもう一つ用意していた。理由は、夕莉が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。泰雅は「一つずつ片づけよう」と言いながら、そっと手渡した。
 夕莉は受け取り、しばらく黙ったあと、「秘密、守る」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。泰雅は「じゃ、今使おう」と前を向き、夕莉はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 夕莉が靴ひもを結び直している間、泰雅は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、夕莉は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。夕莉が「今日は助かった」と言うと、泰雅は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 帰り道、泰雅は「次は夕莉のやりたいことを先に聞く」と言った。夕莉は少し考えてから、茶こしを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の次の約束が、自然に浮かんだ。
【終】