第144話 消臭剤とふたりの手
(魚座君♂x魚座ちゃん♀)
新学期の一週間目、部室で、空気が少しひんやりしていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、律希は小さなものを大事に扱う。里花はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は部室をきれいにする。手元には消臭剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
作業の途中、律希のスマホが鳴った。画面の通知を見た里花は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
律希は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで消臭剤を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
里花は深呼吸して、小さなものを大事に扱う。二人で手を動かし、消臭剤が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に律希が「送れてなかった」と画面を見せると、里花は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。里花が「今日は助かった」と言うと、律希は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
里花が靴ひもを結び直している間、律希は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、里花は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
帰り道、律希は「次は里花のやりたいことを先に聞く」と言った。里花は少し考えてから、消臭剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言いかけた言葉が、ちゃんと形になった。
【終】
(魚座君♂x魚座ちゃん♀)
新学期の一週間目、部室で、空気が少しひんやりしていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、律希は小さなものを大事に扱う。里花はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日の担当は部室をきれいにする。手元には消臭剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
作業の途中、律希のスマホが鳴った。画面の通知を見た里花は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
律希は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで消臭剤を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
里花は深呼吸して、小さなものを大事に扱う。二人で手を動かし、消臭剤が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に律希が「送れてなかった」と画面を見せると、里花は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。里花が「今日は助かった」と言うと、律希は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
里花が靴ひもを結び直している間、律希は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、里花は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
帰り道、律希は「次は里花のやりたいことを先に聞く」と言った。里花は少し考えてから、消臭剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言いかけた言葉が、ちゃんと形になった。
【終】


