星座が示す、144通りの恋

第143話 加湿器で近づく距離
(魚座君♂x水瓶座ちゃん♀)

 日曜の買い物の帰り、通学路の角で、薄い雲が流れていた。ポケットの中で小さな振動が続き、二人の会話が途切れた。
 『恋人』と口にするのに慣れない頃、結衣奈は画面を見て「ごめん、ここで止まりそう」と困り顔。朝陽は立ち止まり、鞄の中を探る。
 助けになるのが加湿器。機械のことが苦手でも、二人なら何とかなる気がした。
 途中で結衣奈が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、朝陽は立ち止まる。
 実は朝陽は昨日、同じ加湿器をもう一つ用意していた。理由は、結衣奈が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。朝陽は「気持ち、わかる」と言いながら、そっと手渡した。
 結衣奈は受け取り、しばらく黙ったあと、「発想を変えよう」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。朝陽は「じゃ、今使おう」と前を向き、結衣奈はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。結衣奈が「今日は助かった」と言うと、朝陽は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 結衣奈が靴ひもを結び直している間、朝陽は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、結衣奈は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 帰り道、朝陽は「次は結衣奈のやりたいことを先に聞く」と言った。結衣奈は少し考えてから、加湿器を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の視線が合うたび、心が落ち着いた。
【終】