第137話 芳香剤とふたりの手
(魚座君♂x獅子座ちゃん♀)
帰り道の夕焼け、体育館の裏口で、校庭に風が走っていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、祥太は相手の言葉を受け止めてうなずく。紗綾はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日は掃除当番。手元には芳香剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
作業の途中、祥太のスマホが鳴った。画面の通知を見た紗綾は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
祥太は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで芳香剤を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
紗綾は深呼吸して、人前でも手を振って呼びかける。二人で手を動かし、芳香剤が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に祥太が「送れてなかった」と画面を見せると、紗綾は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
片づけの最中、芳香剤が机から転がりそうになり、祥太が反射で押さえた。その手の速さに紗綾が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。祥太は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
最後の確認をしていると、紗綾が「ありがとう」とはっきり言った。祥太は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で紗綾の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道、祥太は「次は紗綾のやりたいことを先に聞く」と言った。紗綾は少し考えてから、芳香剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の同じ方向へ進む気持ちが、静かに重なった。
【終】
(魚座君♂x獅子座ちゃん♀)
帰り道の夕焼け、体育館の裏口で、校庭に風が走っていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
二人だけの合図ができたばかりの頃、祥太は相手の言葉を受け止めてうなずく。紗綾はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
今日は掃除当番。手元には芳香剤があり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
作業の途中、祥太のスマホが鳴った。画面の通知を見た紗綾は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
祥太は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで芳香剤を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
紗綾は深呼吸して、人前でも手を振って呼びかける。二人で手を動かし、芳香剤が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に祥太が「送れてなかった」と画面を見せると、紗綾は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
片づけの最中、芳香剤が机から転がりそうになり、祥太が反射で押さえた。その手の速さに紗綾が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。祥太は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
最後の確認をしていると、紗綾が「ありがとう」とはっきり言った。祥太は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で紗綾の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道、祥太は「次は紗綾のやりたいことを先に聞く」と言った。紗綾は少し考えてから、芳香剤を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の同じ方向へ進む気持ちが、静かに重なった。
【終】


