星座が示す、144通りの恋

第123話 アイロン台を渡す瞬間
(水瓶座君♂x双子座ちゃん♀)

 新学期の一週間目、通学路の角で、薄い雲が流れていた。ポケットの中で小さな振動が続き、二人の会話が途切れた。
 『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、莉央は画面を見て「ごめん、ここで止まりそう」と困り顔。海理は立ち止まり、鞄の中を探る。
 助けになるのがアイロン台。機械のことが苦手でも、二人なら何とかなる気がした。
 家電の使い方を覚えるを始める前に、莉央が立ち止まった。「ねえ、約束して」。海理が見返すと、莉央はアイロン台を両手で持ち、落とさないように胸の前に抱えていた。
 「忙しくても、返事はしてほしい」。言い終えると、莉央は目をそらす。海理は一度だけ深くうなずき、「発想を変えよう」と言ってアイロン台を受け取った。
 そして作業の手を止めずに「遅れたら、ここで謝る」と続ける。莉央は目を細め、「じゃあ作戦会議!」と笑った。道具の受け渡しが、二人だけのサインになった。
 最後の確認をしていると、莉央が「ありがとう」とはっきり言った。海理は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で莉央の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 莉央は歩きながら、ふとアイロン台を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。海理が「うん」と待つと、莉央は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 帰り道、海理は「次は莉央のやりたいことを先に聞く」と言った。莉央は少し考えてから、アイロン台を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。 莉央は笑ってうなずき、海理の袖を軽く引いた。
【終】