星座が示す、144通りの恋

第119話 クッションを渡す瞬間
(山羊座君♂x水瓶座ちゃん♀)

 朝練のあと、放課後の空き教室で、雨粒の名残がアスファルトに光っていた。窓の外が早く暗くなり、部屋の中だけがやけに明るく見えた。
 告白の返事をした次の週、玲央奈は足をすり合わせて寒さを追い払う。貴浩は無言でクッションを持ってきた。
 ただの道具のはずなのに、触れた瞬間、心までほぐれていく気がした。
 初めてみると、思ったより早くつまずきが見えた。玲央奈が「ここ、引っかかる」と指さす。貴浩は返事の代わりにうなずき、クッションを手に取った。
 貴浩は黙って段取りを作る。力の入れ方を見せてから、玲央奈の手の上に自分の手をそっと重ね、「このくらい」と角度を示す。玲央奈は新しい道具や仕組みを試す、真剣な目で真似をした。
 うまくいった瞬間、玲央奈の口から「それ、別の方法あるよ」がこぼれた。貴浩は「でしょ」と笑い、でも目線は外して照れを隠す。二人の間に残ったのは、道具の音と、少し早い鼓動だった。
 玲央奈は歩きながら、ふとクッションを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。貴浩が「うん」と待つと、玲央奈は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 片づけの最中、クッションが机から転がりそうになり、貴浩が反射で押さえた。その手の速さに玲央奈が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。貴浩は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、貴浩は「次は玲央奈のやりたいことを先に聞く」と言った。玲央奈は少し考えてから、クッションを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の視線が合うたび、心が落ち着いた。
【終】