第118話 乳液で近づく距離
(山羊座君♂x山羊座ちゃん♀)
冬の息が白い朝、保健室は静かで、夕方の匂いがしていた。千佳は指先をそっと押さえ、息を短く吐いた。
宏樹は椅子を引いて隣に座り、「時間を決めよう」と言いかけて、声の大きさを半分にする。
机の上には乳液。先生の説明より先に、宏樹は千佳の表情を見て、無理をさせたくないと思った。
作業の途中、宏樹のスマホが鳴った。画面の通知を見た千佳は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
宏樹は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで乳液を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
千佳は深呼吸して、最後の片づけまで手を抜かない。二人で手を動かし、乳液が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に宏樹が「送れてなかった」と画面を見せると、千佳は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
千佳は歩きながら、ふと乳液を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。宏樹が「うん」と待つと、千佳は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
最後の確認をしていると、千佳が「ありがとう」とはっきり言った。宏樹は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で千佳の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道、宏樹は「次は千佳のやりたいことを先に聞く」と言った。千佳は少し考えてから、乳液を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の時間が、少しだけ増えた。 千佳は笑ってうなずき、宏樹の袖を軽く引いた。
【終】
(山羊座君♂x山羊座ちゃん♀)
冬の息が白い朝、保健室は静かで、夕方の匂いがしていた。千佳は指先をそっと押さえ、息を短く吐いた。
宏樹は椅子を引いて隣に座り、「時間を決めよう」と言いかけて、声の大きさを半分にする。
机の上には乳液。先生の説明より先に、宏樹は千佳の表情を見て、無理をさせたくないと思った。
作業の途中、宏樹のスマホが鳴った。画面の通知を見た千佳は、一瞬だけ黙る。昨日の返事が来ていないままだったことを思い出したのだ。
宏樹は慌てて説明しようとして、言葉が絡まる。そこで乳液を持ち上げ、「今はこれを一緒にやりたい」と言い直した。逃げずに言い切ったのが、自分でも意外だった。
千佳は深呼吸して、最後の片づけまで手を抜かない。二人で手を動かし、乳液が役目を終えるころには、空気の角が丸くなっていた。最後に宏樹が「送れてなかった」と画面を見せると、千佳は「じゃあ、今日の分は目の前で言う」と笑い、短く「好き」と言った。
千佳は歩きながら、ふと乳液を見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。宏樹が「うん」と待つと、千佳は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
最後の確認をしていると、千佳が「ありがとう」とはっきり言った。宏樹は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で千佳の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
帰り道、宏樹は「次は千佳のやりたいことを先に聞く」と言った。千佳は少し考えてから、乳液を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の時間が、少しだけ増えた。 千佳は笑ってうなずき、宏樹の袖を軽く引いた。
【終】


