星座が示す、144通りの恋

第115話 炊飯器から始まる相談
(山羊座君♂x天秤座ちゃん♀)

 帰り道の夕焼け、家庭科室で、雨粒の名残がアスファルトに光っていた。琴音はエプロンのひもを結び直し、直人は袖をまくった。
 告白の返事を伝えた次の週、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは簡単なおやつを作る。
 鍵になるのが炊飯器で、手順がずれると味も形も崩れる。琴音は「できるかな」と首をかしげた。
 途中で琴音が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、直人は立ち止まる。
 実は直人は昨日、同じ炊飯器をもう一つ用意していた。理由は、琴音が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。直人は「やること、書き出す」と言いながら、そっと手渡した。
 琴音は受け取り、しばらく黙ったあと、「半分こしよう」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。直人は「じゃ、今使おう」と前を向き、琴音はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。琴音が「今日は助かった」と言うと、直人は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 琴音が靴ひもを結び直している間、直人は周りを見回し、来週の予定を指で数えた。「会える日は少ないけど、短くてもいい」と言うと、琴音は「短いほど大事にする」と返して、目を合わせた。
 帰り道、直人は「次は琴音のやりたいことを先に聞く」と言った。琴音は少し考えてから、炊飯器を軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人のそれだけで、今日は十分だと思えた。
【終】