星座が示す、144通りの恋

第105話 ふきんで近づく距離
(射手座君♂x射手座ちゃん♀)

 朝練のあと、体育館の裏口で、校庭に風が走っていた。清掃当番の札が揺れ、誰かの足音が遠くへ消えた。
 二人だけの合図ができたばかりの頃、陽平は遠回りでも面白がる。美空はそれを追いかけながら、ほうきの柄を握り直す。
 今日の担当は部室をきれいにする。手元にはふきんがあり、使い方を間違えるとベタついたり匂いが残ったりする。
 やってみると、すぐに小さな困りごとが顔を出した。美空が「ここ、引っかかる」と指さす。陽平は返事の代わりにうなずき、ふきんを手に取った。
 陽平は軽い足取りで目的地を決める。力の入れ方を見せてから、美空の手の上に自分の手をそっと重ね、「このくらい」と角度を示す。美空は軽い足取りで目的地を決める、真剣な目で真似をした。
 うまくいった瞬間、美空の口から「行ってみよう!」がこぼれた。陽平は「でしょ」と笑い、でも目線は外して照れを隠す。二人の間に残ったのは、道具の音と、少し早い鼓動だった。
 美空は歩きながら、ふとふきんを見つめた。「これって、ただの道具なのにさ」と言いかけて止まる。陽平が「うん」と待つと、美空は小さく笑い、「一緒に使うと、思い出になるね」と続けた。
 片づけの最中、ふきんが机から転がりそうになり、陽平が反射で押さえた。その手の速さに美空が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。陽平は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 帰り道、陽平は「次は美空のやりたいことを先に聞く」と言った。美空は少し考えてから、ふきんを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の小さな合図が、ちゃんと届いた。
【終】