星座が示す、144通りの恋

第103話 ブラシと帰り道
(射手座君♂x天秤座ちゃん♀)

 帰り道の夕焼け、通学路で、夕方の匂いがしていた。二人で歩くと、風の匂いまで違って感じた。
 『恋人』という言葉がまだむずがゆい頃、航は「行ってみよう!」と笑い、美玲奈は「うん」と小さく返す。
 今日は探しものを見つける。二人の間にブラシがそっと置かれていた。それが始まりの合図だ。
 途中で美玲奈が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、航は立ち止まる。
 実は航は昨日、同じブラシをもう一つ用意していた。理由は、美玲奈が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。航は「外の空気、吸おう」と言いながら、そっと手渡した。
 美玲奈は受け取り、しばらく黙ったあと、「半分こしよう」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。航は「じゃ、今使おう」と前を向き、美玲奈はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 片づけの最中、ブラシが机から転がりそうになり、航が反射で押さえた。その手の速さに美玲奈が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。航は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 終わったあと、二人は自販機の前で立ち止まった。美玲奈が「今日は助かった」と言うと、航は照れたように頬をかき、「次はもっと上手くやれる」と返した。缶の温度が手のひらに移って、言葉も少し柔らかくなる。
 帰り道、航は「次は美玲奈のやりたいことを先に聞く」と言った。美玲奈は少し考えてから、ブラシを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人のそれだけで、今日は十分だと思えた。 美玲奈は笑ってうなずき、航の袖を軽く引いた。
【終】