星座が示す、144通りの恋

第99話 ピーラーのせいにして
(射手座君♂x双子座ちゃん♀)

 冬の息が白い朝、家庭科室で、夕方の匂いがしていた。結萌はエプロンのひもを結び直し、駆は袖をまくった。
 『恋人』という呼び方がまだ照れくさい頃、二人は「まずは一回、成功させよう」と小さく笑い合う。今日やるのは温かい飲み物を入れる。
 鍵になるのがピーラーで、手順がずれると味も形も崩れる。結萌は「できるかな」と首をかしげた。
 途中で結萌が鞄をごそごそ探して、困ったように肩をすくめた。「あ、持ってくるの忘れた」——その一言で、駆は立ち止まる。
 実は駆は昨日、同じピーラーをもう一つ用意していた。理由は、結萌が前に「これがあると助かるんだ」と言ったのを覚えていたから。駆は「外の空気、吸おう」と言いながら、そっと手渡した。
 結萌は受け取り、しばらく黙ったあと、「それ、面白くない?」と笑った。声は小さいのに、胸の中がじんわり温かくなる。駆は「じゃ、今使おう」と前を向き、結萌はその背中に小さく「うん」と重ねた。
 片づけの最中、ピーラーが机から転がりそうになり、駆が反射で押さえた。その手の速さに結萌が笑い、「そういうとこ、好き」とさらりと言う。駆は耳まで赤くしながら「今のは反則」と小声で返した。
 最後の確認をしていると、結萌が「ありがとう」とはっきり言った。駆は返事の代わりにうなずき、少しだけ指先で結萌の袖をつまむ。誰にも見えない小さな合図が、二人には十分だった。
 帰り道、駆は「次は結萌のやりたいことを先に聞く」と言った。結萌は少し考えてから、ピーラーを軽く振って合図する。「じゃあ、また一緒に使おう」。その一言で、二人の言葉にしなくても、伝わるものが増えた。 結萌は笑ってうなずき、駆の袖を軽く引いた。
【終】