◆
あれはいつの時代だったか……人間同士で争いが絶えなかったころだったかな。
私はそれ以前から詩稀と面識があったのだが、その時代、詩稀はとある術師の式神になった。
朝垣文乃。
それが、詩稀が仕え、愛した女の名だよ。
彼女は特別強い術師というわけではなかったけれど、詩稀は彼女に仕えていたのさ。
私には、どうして詩稀がそこまで彼女に入れ込んでいたのかわからないけれど、詩稀にとっては特別だったのだろうね。
まあ、鬼神と呼ばれていた彼に詩稀という新たな名を、妖狐の私に月寧という名を授けてくれたことだけは感謝しているけれど。
あのころの詩稀は見るからに腑抜けていって、つまらなかったよ。
だから私は、彼女が死んで詩稀が解放される日を待つことにした。
彼女との契約が終われば、詩稀はまた私と遊んでくれるだろうと踏んでね。
その日は、存外、すぐにやってきた。
詩稀は彼女と契約するまで、人間からもあやかしからも恐れられていてね。
理由は簡単だよ。力の強い詩稀は、頼まれれば人間もあやかしも殺めていたのさ。それこそ、今のようにね。
そして、時が経てば、恐れは恨みに変わる。
つまり、詩稀に復讐をしたいと願った人間たちが、彼女に目をつけたのだよ。
朝垣文乃を殺せば、詩稀も倒せるだろうとね。
当然、そんな雑魚に負けるような詩稀ではない。
しかし、数が多かったゆえ、死角ができてしまった。
詩稀もここまでかと呆れたときだった。
詩稀を狙った刀身が、彼女の身体を貫いた。
即死だった。
それからの詩稀は手をつけられないくらいのバケモノになってしまってね。
あれはまさに、死鬼だった。
詩稀を囲んでいた奴らを圧倒し、無関係な人間まで手をかけるかと思えば、彼女の親族があるものを渡して詩稀の怒りを治めたのさ。
――これは文乃が残したものです。ぜひ、貴方様に持っていていただきたい。
そう言ってね。
もちろん、詩稀はそれを手放さなかった。
それは……その御守りは、詩稀の力を弱め、いずれ詩稀を消してしまうものだったというのに。
今までの詩稀なら、妙な気配を感じ取って捨てたことだろう。
だが、それが彼女の遺品だからと、なにも疑っていなかった。
本当は、彼女が残したものではなかったことにすら、気付かずにね。
私は、見ていられなかった。
詩稀がちっぽけな御守りに縋っていることも、静かに消えてしまいそうになっていることも。
だから壊したのさ。
その御守りを。
当然のごとく、詩稀は怒りに満ちた表情で私を見てきたよ。
だが、久方ぶりに詩稀が生きている顔を見せてくれたゆえ、私は後悔していない。
長いこと恨まれているけれどね。
それからさ。
詩稀が私を含むあやかしをすべて憎み、殺すようになったのは。
詩稀は誰も寄せ付けなくなってしまったけれど、私は、彼が生きていてくれるのなら、それでいいとすら思うのだよ。
あれはいつの時代だったか……人間同士で争いが絶えなかったころだったかな。
私はそれ以前から詩稀と面識があったのだが、その時代、詩稀はとある術師の式神になった。
朝垣文乃。
それが、詩稀が仕え、愛した女の名だよ。
彼女は特別強い術師というわけではなかったけれど、詩稀は彼女に仕えていたのさ。
私には、どうして詩稀がそこまで彼女に入れ込んでいたのかわからないけれど、詩稀にとっては特別だったのだろうね。
まあ、鬼神と呼ばれていた彼に詩稀という新たな名を、妖狐の私に月寧という名を授けてくれたことだけは感謝しているけれど。
あのころの詩稀は見るからに腑抜けていって、つまらなかったよ。
だから私は、彼女が死んで詩稀が解放される日を待つことにした。
彼女との契約が終われば、詩稀はまた私と遊んでくれるだろうと踏んでね。
その日は、存外、すぐにやってきた。
詩稀は彼女と契約するまで、人間からもあやかしからも恐れられていてね。
理由は簡単だよ。力の強い詩稀は、頼まれれば人間もあやかしも殺めていたのさ。それこそ、今のようにね。
そして、時が経てば、恐れは恨みに変わる。
つまり、詩稀に復讐をしたいと願った人間たちが、彼女に目をつけたのだよ。
朝垣文乃を殺せば、詩稀も倒せるだろうとね。
当然、そんな雑魚に負けるような詩稀ではない。
しかし、数が多かったゆえ、死角ができてしまった。
詩稀もここまでかと呆れたときだった。
詩稀を狙った刀身が、彼女の身体を貫いた。
即死だった。
それからの詩稀は手をつけられないくらいのバケモノになってしまってね。
あれはまさに、死鬼だった。
詩稀を囲んでいた奴らを圧倒し、無関係な人間まで手をかけるかと思えば、彼女の親族があるものを渡して詩稀の怒りを治めたのさ。
――これは文乃が残したものです。ぜひ、貴方様に持っていていただきたい。
そう言ってね。
もちろん、詩稀はそれを手放さなかった。
それは……その御守りは、詩稀の力を弱め、いずれ詩稀を消してしまうものだったというのに。
今までの詩稀なら、妙な気配を感じ取って捨てたことだろう。
だが、それが彼女の遺品だからと、なにも疑っていなかった。
本当は、彼女が残したものではなかったことにすら、気付かずにね。
私は、見ていられなかった。
詩稀がちっぽけな御守りに縋っていることも、静かに消えてしまいそうになっていることも。
だから壊したのさ。
その御守りを。
当然のごとく、詩稀は怒りに満ちた表情で私を見てきたよ。
だが、久方ぶりに詩稀が生きている顔を見せてくれたゆえ、私は後悔していない。
長いこと恨まれているけれどね。
それからさ。
詩稀が私を含むあやかしをすべて憎み、殺すようになったのは。
詩稀は誰も寄せ付けなくなってしまったけれど、私は、彼が生きていてくれるのなら、それでいいとすら思うのだよ。



