◇
ご飯やお風呂を終えたときには、もう日付が変わろうとしていた。すべてにおいて私が一番最後で、毎日こんな生活をしていれば、寝る時間が遅いことなんてなんとも思わなくなってくる。
でも、今日は少しだけ違った。
ベッドに潜り込んで、脳裏に過るのは、あの公園でのこと。
あやかしを殺している死鬼と、その友人であろうあやかしの月寧。
――彼の名は稀な詩で詩稀というのだよ。彼が初めて愛し、失ってしまった人間の女がつけた名さ。
ひとりになって思い返すと、死鬼が哀しみに染まった表情を見せた理由も納得できた。大切な人がいなくなれば、誰だって悲しみに染まってしまう。
でも、どうしてあやかしを殺すようになってしまったのだろう。
なにより、ケモノに向けた憎しみと月寧に向けた怒り。あの違いも気になる。
――詩稀のことが知りたくなったら、私を呼ぶといい。
その言葉とともに思い出すのは、月寧のなにかを企んでいるような、胡散臭い顔だ。月寧が素直に死鬼のことを教えてくれるとは思えない。
でも、再び死鬼に会うことも、彼に直接なにがあったのかを聞いて過去を知ることも、難しいに決まっている。
となれば、やっぱり月寧に聞くしかない。
明日また、あの公園に行ってみよう。それで月寧に会えたら、死鬼のことを聞いてみよう。
そんなことを思いながら欠伸をひとつして、私は意識を手放した。
◇
翌日の放課後、私はあの公園に向かった。
相変わらず人気がない。だけど、昨日みたいな異様な空気は感じない。
今までなら、あやかしに関わらずに済むと安心していただろうけど、今日はそういうわけにはいかなかった。
むしろ、彼らの気配がないことを残念に思っているくらいだ。
しかしながら、ここで会えそうにないなら、どこで会えというのだろう。月寧は私のことをよく知っているみたいだったけど、私は、昨日彼らのことを知ったばかり。彼らがどこにいそうなのかなんて、知るわけがない。
「……そうだ」
私は彼らのことをなにも知らない。だけど、知っていそうな子たちには心当たりがある。
公園を離れ、いつもなら近寄らないような場所に足を向けた。それは、あやかしたちが好んでいるような薄暗い場所。路地裏だったり、木の上だったり。誰でもいいから、あやかしに会えればと思って探し回るけど、なかなか見つからない。
出てきてほしくないときには絡んでくるのに、こういうときにいないなんて、本当に自由な存在だ。いっそ、羨ましいくらい。
ただ風に揺られている青葉を見上げてため息をつくこと、十回目。
「ツバメー!」
これ以上は帰る時間が遅くなってしまうと思ったそのとき、どこからか大きな声で呼ばれた。
その声の主を見つけるよりも先に、背中になにかが激突した。それの勢いが凄まじく、私は簡単にバランスを崩した。はたから見れば、私がなにかに打たれたみたいに倒れたことだろう。
幸い、誰もいないから、勘違いされることもないけれど。
「ツバメ、大丈夫?」
私に追突してきた本人は、悪びれる様子もなく、私の顔を覗きこんでいる。いや、なにが悪いのかもわかっていないのかもしれない。
謎の銃弾の正体は、昨日のケモノだった。
私が身体を起こすと、ケモノは私が平気なんだと判断したのか、純粋な笑みを浮かべた。
「君……無事だったんだね」
「うん! ツキネさまが守ってくれたんだ!」
それなら、初めから月寧に助けを求めればよかったのに。
そう思ったけれど、なかなかにひねくれた思考なので、私はその言葉を飲み込んだ。
「その月寧サマが、今どこにいるかわかる?」
私の質問に、ケモノは首を傾げて応えた。
この子が知らないなら、本格的に手がかりがなくなった。これではただ制服が汚れただけだ。おばさんになんて説明しよう。なんて、私のことには興味ないだろうけど。
「あっ」
すると、ケモノが視線を上げて声を出した。
その視線は、私の少し上。
「案外早かったね、椿芽さん」
私の背後に現れた月寧は、やっぱり胡散臭い表情をしていた。
私がその名を口にした瞬間に現れたところからして、名前を呼べばいいというのは比喩ではなかったのかもしれない。
というより、死鬼といい、月寧といい、あやかしというのは急に背後に現れるものなのか。背筋が冷えるからやめてほしい。
「死鬼のこと、教えてくれるって言うから」
制服についた砂を払いながら立ち上がり、顔を上げると、月寧は泣きそうに微笑んだ。
なんとなく、それが月寧の本当の顔で、その瞳には私なんか写っていないように感じた。
「……そうだね。話そう」
月寧はそう言って、静かに語り始めた。
ご飯やお風呂を終えたときには、もう日付が変わろうとしていた。すべてにおいて私が一番最後で、毎日こんな生活をしていれば、寝る時間が遅いことなんてなんとも思わなくなってくる。
でも、今日は少しだけ違った。
ベッドに潜り込んで、脳裏に過るのは、あの公園でのこと。
あやかしを殺している死鬼と、その友人であろうあやかしの月寧。
――彼の名は稀な詩で詩稀というのだよ。彼が初めて愛し、失ってしまった人間の女がつけた名さ。
ひとりになって思い返すと、死鬼が哀しみに染まった表情を見せた理由も納得できた。大切な人がいなくなれば、誰だって悲しみに染まってしまう。
でも、どうしてあやかしを殺すようになってしまったのだろう。
なにより、ケモノに向けた憎しみと月寧に向けた怒り。あの違いも気になる。
――詩稀のことが知りたくなったら、私を呼ぶといい。
その言葉とともに思い出すのは、月寧のなにかを企んでいるような、胡散臭い顔だ。月寧が素直に死鬼のことを教えてくれるとは思えない。
でも、再び死鬼に会うことも、彼に直接なにがあったのかを聞いて過去を知ることも、難しいに決まっている。
となれば、やっぱり月寧に聞くしかない。
明日また、あの公園に行ってみよう。それで月寧に会えたら、死鬼のことを聞いてみよう。
そんなことを思いながら欠伸をひとつして、私は意識を手放した。
◇
翌日の放課後、私はあの公園に向かった。
相変わらず人気がない。だけど、昨日みたいな異様な空気は感じない。
今までなら、あやかしに関わらずに済むと安心していただろうけど、今日はそういうわけにはいかなかった。
むしろ、彼らの気配がないことを残念に思っているくらいだ。
しかしながら、ここで会えそうにないなら、どこで会えというのだろう。月寧は私のことをよく知っているみたいだったけど、私は、昨日彼らのことを知ったばかり。彼らがどこにいそうなのかなんて、知るわけがない。
「……そうだ」
私は彼らのことをなにも知らない。だけど、知っていそうな子たちには心当たりがある。
公園を離れ、いつもなら近寄らないような場所に足を向けた。それは、あやかしたちが好んでいるような薄暗い場所。路地裏だったり、木の上だったり。誰でもいいから、あやかしに会えればと思って探し回るけど、なかなか見つからない。
出てきてほしくないときには絡んでくるのに、こういうときにいないなんて、本当に自由な存在だ。いっそ、羨ましいくらい。
ただ風に揺られている青葉を見上げてため息をつくこと、十回目。
「ツバメー!」
これ以上は帰る時間が遅くなってしまうと思ったそのとき、どこからか大きな声で呼ばれた。
その声の主を見つけるよりも先に、背中になにかが激突した。それの勢いが凄まじく、私は簡単にバランスを崩した。はたから見れば、私がなにかに打たれたみたいに倒れたことだろう。
幸い、誰もいないから、勘違いされることもないけれど。
「ツバメ、大丈夫?」
私に追突してきた本人は、悪びれる様子もなく、私の顔を覗きこんでいる。いや、なにが悪いのかもわかっていないのかもしれない。
謎の銃弾の正体は、昨日のケモノだった。
私が身体を起こすと、ケモノは私が平気なんだと判断したのか、純粋な笑みを浮かべた。
「君……無事だったんだね」
「うん! ツキネさまが守ってくれたんだ!」
それなら、初めから月寧に助けを求めればよかったのに。
そう思ったけれど、なかなかにひねくれた思考なので、私はその言葉を飲み込んだ。
「その月寧サマが、今どこにいるかわかる?」
私の質問に、ケモノは首を傾げて応えた。
この子が知らないなら、本格的に手がかりがなくなった。これではただ制服が汚れただけだ。おばさんになんて説明しよう。なんて、私のことには興味ないだろうけど。
「あっ」
すると、ケモノが視線を上げて声を出した。
その視線は、私の少し上。
「案外早かったね、椿芽さん」
私の背後に現れた月寧は、やっぱり胡散臭い表情をしていた。
私がその名を口にした瞬間に現れたところからして、名前を呼べばいいというのは比喩ではなかったのかもしれない。
というより、死鬼といい、月寧といい、あやかしというのは急に背後に現れるものなのか。背筋が冷えるからやめてほしい。
「死鬼のこと、教えてくれるって言うから」
制服についた砂を払いながら立ち上がり、顔を上げると、月寧は泣きそうに微笑んだ。
なんとなく、それが月寧の本当の顔で、その瞳には私なんか写っていないように感じた。
「……そうだね。話そう」
月寧はそう言って、静かに語り始めた。



