いらっしゃいませ、お姫様 ―Kitty Catへようこそ―


「あー、YUKIさんも緊張するなぁ。晴さんがインテリ系って言ってたから、YUKIさんの話についていけるかな? 『馬鹿な子だ』って思われたらどうしよう」
 普段、インテリ系の人物と関わる機会なんてあまりない私は、つい身構えてしまう。
 難しい政治経済の話をされたらどうしよう。私、絶対に答えられない。
 でも、宣材写真では凄くイケメンだったから会ってみたい……。
 私が一人で葛藤をしていた時――。静かな室内に、ノックの音が響き渡った。


 ドアが静かに開き、眼鏡をかけた、まさにインテリ系の男性が現れた。
 彼のシャツの上には、上品なネクタイがきちんと結ばれている。
 メガネのレンズを通して、彼の鋭い視線で部屋の中を見渡し、その視線が私に当たると全身が緊張した。
 彼の動きは流れるように滑らかで、その中には自信と威圧感が混じり合っていた。
(え? やっぱり怖い人なのかな?)
 私が身構えると、にっこりと微笑んでくれたから、全身からほんの少しだけ力が抜けた。
 白くてフワフワの耳と、ユラユラと動く白い尻尾。真っ白で、本当に雪みたいだ。
 

「私を指名してくださったのですね? ありがとうございます。私を指名するなんて、あなたも変わった人ですね」
 少しだけはにかんだようにYUKIさんが笑う。もしかしたら、彼自身も緊張しているのかもしれない。
 真っ白な三角の耳はピンと立ち、思わず触ってみたくなるようなフワフワの尻尾は、猫が怒った時のように少し膨らんでいる。
 その警戒心丸出しのYUKIさんに、こちらまで緊張してきてしまった。
「え? YUKIさんの瞳……」
 私の隣に腰を下ろしたYUKIさんの瞳を見て、私は一瞬言葉を失ってしまう。彼の目は片方が黄色で、もう片方が青色なのだ。
 そのあまりにも綺麗な瞳をもっと近くで見たくて、無意識にYUKIさんに顔を近づける。すると「やめてください」と体を離されてしまう。
 でもそれは、私に対する拒絶反応ではなく、ただの照れ隠しのように思えて、なんだか微笑ましい。
 きっと勉強ばかりしていて、女性経験があまりないのかもしれない。
 すると、突然YUKIさんが、少しだけ顔を赤らめながら私の方を見つめてきた。その初々しさに、私の鼓動が徐々に速くなる。


「そうだ、姫。親睦を深めるためにも、ここで一つクイズを出してもいいですか?」
「クイズですか?」
「はい。私に関するクイズです」
 YUKIさんがフワリと宙に舞う雪のように笑うものだから、私の鼓動がどんどん速くなっていく。私は少し緊張しながらも「どうぞ」とYUKIさんの誘いに応じた。
 一体どんなクイズだろうか? なんだか緊張してきてしまう。
 回答を間違えたら怒られそう……。そう思うと、握っている手にじっとりと汗が滲み出てきた。
「では問題です。私は白猫なのですが、一般的に言われている、白猫の性格は次のうちどれに当てはまると思いますか? お答えください」


A.フレンドリー
B.神経質
C.穏やか


「さてどれでしょう?」
 YUKIさんからどんなクイズを出されると思ったら、なんだ、こんなクイズか……。
 こんなの簡単よ! だって今までのYUKIさんを見ていれば、一目瞭然だもの。でも、このクイズに回答をしたら、失礼にあたるのでは……? と不安になってしまう。
 でもYUKIさん自身が出してきたクイズだ。私は勇気を振り絞ってYUKIさんの綺麗な瞳を見つめた。
「白猫の性格は、Bの神経質です」
「ほう……。大正解です。白猫はクールとか、繊細、あと独占欲が強い、なんて言われています」
「へぇ。優雅な白猫にぴったりの性格ですね?」
「いえ、そんなことは……。すみません、こんな性格で」
「いえ! 全然大丈夫です」
 YUKIさんは片手で口元を抑えると、しばらく俯いてしまう。
 確かに、YUKIさんと会話を楽しむことはできないかもしれないけれど、こんなイケメンを拝んでいられるだけで、私は十分だ。
 

「すみません、私はホストのくせに女性が苦手で。特に教養がない方は……。どうかご気分を害されないでくださいね」
 教養がない……という言葉が若干気にはなったけれど、私はYUKIさんと仲良くなりたくて、にっこりと笑って見せた。
「全然大丈夫です。でも私、一応大学は出てますが、頭はよくないですよ? もしかしたらYUKIさんのお話についていけないかも……」
「そこは心配なく。私は、ホストクラブでギャーギャー騒いでいるような、頭の悪い女性が苦手なのです」
「…………」
 YUKIさんの言葉に、私は何も言い返すことができなかった。
 だって、つい数時間前「担当を出せ!」とホストクラブの入り口で大騒ぎしてきたのだから……。
「それに私も、本当はホストクラブにいるような人間ではないのですが、晴さんに頼まれて仕方なく……ゴホンッ、頼まれて一生懸命働かせていただいています」
「そうなんですね。もしかして昼間は違う仕事をしているんですか?」
「はい。外資系の大手企業で働いています」
「凄い……」
「べ、別にそんなことはありませんよ。普通に英語が話せれば誰でも働けますし」
「YUKIさん、英語が話せるんですか?」
「まぁ、海外で困らない程度に、何ヶ国語かは話せます」
 頬を少し赤らめながら口元を抑えるYUKIさんは、一見ホストには見えない。本当に仕事のできるサラリーマンのようだ。
 でも、その整った容姿を見てしまえば、ホストをやっているということも頷ける。晴さんだって、ついスカウトしたくなってしまうだろう。


 時折落ちてきた眼鏡をクイッとあげる仕草も、長い足を組む姿からも、男の色気を感じられてドキドキする。
 先程まで膨らんでいたフワフワの尻尾も、普通に戻っているようだ。少しずつ私に心を開いてくれているのだろうか? 
だとしたら嬉しいな……。私はそう感じた。
「姫、申し訳ありません。こんな私と話していてもつまらないですよね?」
「いえ、全然」
「私は普段仕事や勉強ばかりしていて、今流行りのものや、女性の気持ちなんて全然わからなくて……」
「そんなことないです。大丈夫ですよ」
 むしろ、不器用なくせに、一生懸命私と向き合ってくれるその誠実さに、私はどんどん惹かれていった。
 それに、こんなにも近くでイケメンを眺められるだけで、私は十分幸せなのだ。


「そうだ、姫。私の好きな物をねだってもよろしいでしょうか?」
「YUKIさんの好きな物ですか?」
「はい。姫、私の好きな物を覚えてくれていますか? 次の三つの中から選んでください。勿論、覚えてくれていますよね?」
「え?」
 私の心臓が一瞬止まりそうになる。
 落ち着け、落ち着け自分……。


A.高級なピューレ状のおやつ
B.高級なカリカリ
C.高級な猫じゃらし


「もしや、覚えてなかったりしますか?」
 YUKIさんはそう言うと、眼鏡の淵をクイッと上げる。そんな仕草はやっぱりかっこいいけれど……。
(なんだかこれ、テストみたい!? 間違えたら怒られそう)
 そう思うと、指先が小刻みに震えてくる。「馬鹿な女」だなって、YUKIさんに嫌われたくない。私は祈るような思いで、メニューを指さす。
「YUKIさんが好きなのは、Cの高級な猫じゃらしですよね?」
「へぇ、覚えていてくれたんですね。なんだか嬉しいです」
 そう照れくさそうに笑うYUKIさん。最初は怖く感じたけれど、少しずつそのイメージも払拭されていく。
(でも、なんでYUKIさんが猫じゃらしなんだろう……。イメージと合わない)
 それでも私は、ガラスの瓶に刺さっている高そうな猫じゃらしを一本取り出す。それはとてもフワフワしていて、YUKIさんの尻尾のようだ。
「はい、YUKIさん」
「ありがとうございます」
 YUKIさんは、あまり嬉しそうな顔もせず、猫じゃらしを受け取ろうと手を伸ばしてきた。
(この猫じゃらし綺麗だから、家にでも飾っておくのかな?)
 そう思っていたら、ふわりと猫じゃらしが揺れた。


 その時――。
 突然YUKIさんが猫じゃらしめがけて、手を出してきたのだ。それは、本物の猫が、猫じゃらしにじゃれているようで……。
 YUKIさんは「別にこれは……」なんて言い訳をしているけれど、私はその時ピンときたの。
「もしかして、YUKIさん……無意識に猫じゃらし(これ)にじゃれちゃう、とか……?」
「そんなことありません。私がそんな子ども騙しの玩具に、興味があるわけないじゃないですか?」
「そうですか……。でも……」
 私がわざと猫じゃらしを揺らすと、真っ白な耳と尻尾が大きく揺れる。
(やっぱり、じゃれたいんだ)
 それは確信に変わる。
 私は猫と遊ぶ時のように、猫じゃらしを揺らした。
「ほら、YUKIさん、YUKIさん、捕まえてみてください」
「だから、私はそんなものに興味は……」
「でも、ほらほら」
 口では「興味がない」なんて言っておきながら、本能には逆らえないようだ。しばらく猫じゃらしを眺めていたYUKIさんが、目を輝かせながらそれを掴まえようとし始める。
(よしよし、のってきたぞ) 
 私は嬉しくなってしまい、しばらくの間、YUKIさんと猫じゃらしで遊んだのだった。

 
「よし、捕まえましたよ」
「あー、捕まっちゃったぁ……」
 私が持っていた猫じゃらしをYUKIさんが捕まえて、それを「どうだ!」と言わんばかりに掲げて見せてくれる。その瞬間、ハッと我に返ったようだ。
「あ、えっと、私は普段は別にこんな感じでは……。今日はお客様がいらっしゃったので、特別にサービスをさせていただいただけです」
 と、顔を真っ赤にしながら言い訳を始めた。
(ふふっ。最初は怖そうに見えたけど、この人可愛い。超ツンデレじゃん)


 インテリ系の彼が突然可愛らしい笑顔を見せる。そのギャップに私は思わずキュンとした。
 その笑顔は、氷のように冷たい彼のイメージを一瞬で溶かし、今は優しさと温かさが溢れ出している。
 その表情に、私は彼の新しい一面に出会えたような気がして、とても嬉しかった。
(YUKIさんはギャップ萌えNo.1ね)
 そう思った時――。
 遠くからチリンチリンとベルが鳴る音がする。それを聞いたYUKIさんが、少しだけ顔を曇らせた。


「もう十分経ったみたいですね。私との時間はこれでお仕舞です」
「え? もうですか? 私、もっとYUKIさんと猫じゃらしで遊びたかった」
「それは、私も同じです。その猫じゃらしは思い出にあなたに差し上げますね」
「ありがとうございます」
 その瞬間、YUKIさんの顔から笑みが消える。
 綺麗なオッドアイから目を離すことができず、私はYUKIさんと見つめ合った。
 そして急に腕を引かれ、YUKIさんとの距離が一気に縮まる。「え……」と思う間もなく、そっと体を寄せられた。


「私を『送り』に選んでください。私は初対面の人が苦手ですが、今のあなたになら『|男『ホスト』』としての私を見せることができそうです」
「男としての、YUKIさん……」
「見せてあげたい、本当の私を」
「本当のYUKIさんを?」
「そう。私だって、男なんですよ。では、失礼いたします」
 YUKIさんは眼鏡をクイッと上げながら、私に向かい深く一礼する。
 それから、ドアの向こうへと消えていってしまった。


 では姫、この後はどうされますか?


1.他のホストには会わずにこのまま帰る⇒気をつけてお帰りください。またのお越しを心よりお待ちしております。

2.他のホストには会わず、YUKIを送りに指名する⇒15ページに進んでください。
 
3.次のページの蒼月と話をする⇒7ページに進んでください。

4.もう一度会うホストを決めたい⇒猫本のページへお戻りください。


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