いらっしゃいませ、お姫様 ―Kitty Catへようこそ―


「姫、僕を選んでくださりありがとうございます」
「そ、そんな……」
「どうぞ、ゆっくりしていってくださいね。あ、お飲み物はソフドリがいいと仰ってましたが、リンゴジュースで大丈夫ですか?」
「はい。私、リンゴジュース大好きなんです」
「そうですか。それはよかった」
 晴さんが私に向かって微笑むと、心臓が止まりそうになる。だって、本当に王子様みたいでかっこいいんだもの。
 鼓動が少しずつ速くなっていって、体が熱を帯びていく――。
 今まで、晴さんのようなホストに会ったことがなかった私は、少しだけ戸惑いを感じてしまう。
 晴さんは慣れた手つきでグラスに(アイス)を入れて、リンゴジュースを丁寧に注いでくれる。
「どうぞ、お召し上がりください」
「はい……」
 本当に姫と王子様になってしまったような気がして、私の心がくすぐったくなってしまう。
(晴さん、本当に王子様みたいでかっこいい)
 私はせっかく準備してもらったジュースを飲むことさえ忘れて、晴さんの顔を見つめてしまった。 
 すると、突然晴さんが私の方を向いてにっこりと笑う。その笑顔が素敵過ぎて、私の心臓が止まってしまいそうになった。


「姫、ここで一つクイズを出してもいいですか?」
「クイズですか?」
「はい!」
 晴さんの無邪気な笑顔を見ていると、心の中に花が咲いたような気持ちになるから不思議だ。私は笑顔で「いいですよ」と晴さんに向かって答える。
 一体どんなクイズだろうか? なんだかワクワクしてしまう。
「では問題です。僕は茶トラの猫なのですが、一般的に言われている、茶トラの猫の性格は次のうちどれでしょう?」


A.気が強い
B.神経質
C.おっとり


「さてどれでしょう?」
 晴さんからどんなクイズを出されるかと思ったら、なんだ、こんなクイズか……。
 こんなの簡単よ! だって今までの晴さんを見ていれば、一目瞭然だもの。私は自信満々に答えたわ。
「茶トラの猫の性格は、Cのおっとりです」
「わぁ! 大正解です。茶トラの猫はありがたいことに、優しい、おっとりしている、フレンドリーなんて言われています。なんだか恥ずかしいですよね」
「そんなことないです! 晴さんの性格にピッタリじゃないですか?」
「そう言ってもらえるなんて、本当に嬉しいです。こんな僕ですが、仲良くしてくださいね」
「はい」
 晴さんの優しい雰囲気に、自分の荒んだ気持ちが少しずつ丸くなっていくのを感じる。
 もしかしたら、私の緊張をやわらげるために、わざわざこんなクイズを出してくれたのかもしれない。


「……あの、今日どうして泣いていたのかを聞いてもよろしいですか?」
「え?」
「このお店に来るまで、泣きながら走っていらっしゃったので……」
「あ、あれは……」
「別に話したくなければ、いいんです。ごめんなさい。込み入った話をしてしまって」
「いえ……」
 そう言えば、私はつい先ほどまで担当にフラれて泣いていたのだ。
この世の終わりだ……と言わんばかりに泣いていたはずが、今ではお姫様のように扱われて気分がいい。
 担当(あいつ)のことなんてすっかり忘れていた。
 私ってなんて現金なんだろう……って、自分に失望してしまう。


「でもよかったです。涙も止まったみたいですし」
「え?」
「ふふっ。泣いたから、こんなにも頬が熱を持っていますよ」
 そう言いながら晴さんが、そっと私の頬に触れてくる。「僕の手は冷たいから気持ちがいいでしょう?」なんて笑いながら。
(男の人に、こんな風に心から優しくされたのなんて久しぶり……)
 思わず晴さんの冷たい手に、頬擦りをしてしまいそうになる。
 それに、私の頬が熱いのは泣いたせいだけじゃなくて、晴さんが目の前にいるから……。そう思ったけれど、そんなことは恥ずかしくて言えるはずもない。


「もう泣かないでください。姫には笑顔が一番似合います」
「本当ですか?」
「はい。笑った顔はとても可愛らしいですよ」
「そんな……」
 再び熱くなった頬を、両手で覆う。
 王子様みたいな晴さんにこんなことを言われたら、嬉しくなってしまう。
 晴さんは、あまりにも自然に「可愛い」と言ってくれる。その言葉に、嘘偽りなどない気がして、素直に嬉しいって思える。


 時々ピョコピョコと動く、晴さんの三角の耳が可愛らしい。
「あの、耳に触ってみてもいいですか?」
「別に構いませんよ。どうぞ」
 晴さんに許可をもらい、その耳に恐る恐る触れた瞬間、あまりの肌触りのよさにびっくりしてしまった。
「フワフワだぁ」
「ありがとうございます。でも人に触られるのって、ちょっと擽ったいですね」
 晴さんが恥ずかしそうに、にっこりと笑った。


「そうだ。僕の好きな物をおねだりしてもいいですか?」
「晴さんの好きな物、ですか?」
「はい。このお店はシャンパンや飾りを入れていただく代わりに、そのホストが好きな物を買っていただくシステムになっているんです」
「あ、確かそうでしたよね」
「姫、僕の好きな物を覚えてくれていますか? 次の三つの中から選んでくださいね」


A.通常のピューレタイプのおやつ
B.通常のカリカリ(ドライフード)
C.猫じゃらし


「ふふっ。どれでしょう?」
 晴さんはそう言うと、クリクリした真ん丸な瞳で私の顔を覗き込んでくる。
(くぅー! 今度は可愛いときたか!?)
 私は悶絶しながら、メニューを指さす。
「晴さんが好きなのは、Aの通常のピューレタイプのおやつですよね?」
「正解です! よく覚えていてくれましたね! 僕とっても嬉しいです」
 晴さんのキラキラした笑顔が眩しくて、私の目が潰れてしまいそうだ。
 尻尾がゆらゆらと揺れている。無意識だろうか? 可愛すぎる!
「じゃあ、一本だけいただきますね」
「はい、どうぞ! 一本と言わずに何本でも!」
「ありがとうございます」


 晴さんは、綺麗なグラスに入っているピューレタイプのおやつを一本手に取り、しばらく見つめた後……。いつものような柔和な笑みを浮かべる。
 その笑顔が本当に素敵で、私の心臓はドキドキしっぱなしだ。
(本当に晴さんって、かっこいいし可愛いし、綺麗だし、優しい……)
 晴さんを見ているだけで、胸がギュッとしめつけられる思いがした。


「……やっぱり今食べないで、大切にとっておこうかな?」
「え? なんでですか?」
「せっかく姫からいただいたのに、今食べたらもったいないから……」
 そう言いながら、晴さんはスーツの胸ポケットにピューレ状のおやつを大事そうにしまった。
「仕事が終わったら、姫のことを思い出しながら、大切にいただきますね」
「晴さん……」
「姫、僕へのご褒美ありがとうございます」
「…………」
 私は嬉し過ぎて、言葉にすることができない。


 晴さんはそこに座っているだけなのに、周りの雰囲気をほんのり明るくしてくれる。
 その笑顔は、春の日差しのように優しく、私の心の奥まで届いてくる。『晴』という名前は、本当に彼にぴったりだ。
 その笑顔を見ると、ただただ幸せな気持ちになる。
 それは、私が未だに感じたことのない、特別な幸せだった。


 その時、遠くからチリンチリンとベルが鳴る音がする。それを聞いた晴さんが、少しだけ寂しそうな顔をした。
「十分経ったみたいなので、僕とのお話はこれで終わりです」
「え? もうですか? 私、もっと晴さんと話したかったです」
「それは僕も同じですよ」
 私の肩をそっと叩きながら、晴さんが寂しそうに笑う。耳もシュンと垂れ下がっているから、本当に寂しいと感じていてくれているのだろう。
 いや、それが作戦かもしれないけれど……。
 すっかり忘れていたけれど、彼はれっきとしたホストだ。
 そんなことを考えていると、彼は私の片手を取り、片膝をついてその場に跪いたの。
 それが本物の王子様みたいで、私の鼓動がどんどん速くなっていった。


「もしよければ、僕を『送り』に選んでください。そうしたら、もう少しだけ僕とお話ができますから」
「晴さん……」
「本当は、僕はもっと姫と一緒にいたいんです」
「そんな……。嬉しいです」
「姫を『帰したくない』なんて言ったら、迷惑ですよね? すみません、勝手なことを言って」
 晴さんは目を細め、少し顔を背けながら笑う。高い鼻筋と鮮やかな唇の間に、照れくさそうな笑みが浮かぶ。
 その笑顔はまるで春風が吹き抜けるように、私の心を優しく包んだ。
「我儘を言ってすみませんでした。でも、この言葉に嘘偽りなんてありませんから」
「べ、別に我儘だなんて思ってないですからね!」
「でも、僕は一瞬でも姫を独り占めしたいって思ってしまいました。これでは、ホスト失格ですね……。では失礼します」
 晴さんは丁寧に私に向かい頭を下げると、一瞬にっこりと微笑み、扉の向こうに消えていってしまう。
(晴さん、超かっこよかったなぁ……)
 彼が付けていた香水の残り香に包まれながら、幸せだった時間を思い返した。


 では姫、この後はどうされますか?


1.他のホストには会わずにこのまま帰る⇒気をつけてお帰りください。またのお越しを心よりお待ちしております。

2.他のホストには会わず、晴を送りに指名する⇒13ページに進んでください。
 
3.次のページの帝と話をする⇒5ページに進んでください。

4.もう一度会うホストを決めたい⇒猫本のページへお戻りください。
 
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