いらっしゃいませ、お姫様 ―Kitty Catへようこそ―


 私は猫本を見て、思わず唸り声をあげてしまう。
 晴さんが言っていた通り、本当にみんなイケメンなのだ。この中から一人を選ばなくてはならないなんて……。本当に酷な話だ。
 見た目も、『かっこいい』から、『綺麗』、『可愛らしい』までの全てが揃っているし、年齢も様々だ。


「あー、どうしよう」


 両手で頭を抱えながら、目の前に置かれた猫本のページを行ったり来たりしている。
 誰もがイケメンに見えるし、全員と話がしてみたい。
 思考がグルグルと回って、考えがまとまらない。
(もう、お願い、誰かこの思考を止めて……)
 私が泣きそうになっていると、晴さんがそっと肩に手を置いてくれる。それから、いつものように優しく微笑んだ。


「とても困っていらっしゃるようなので、僕から少しだけ追加情報をお教えしますね」
「え? 本当ですか? ありがとうございます」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
 そう微笑む晴さんを見ていると、とても癒される。
 先程私に罵声を浴びせた担当に、あんなにも時間とお金を費やしていたことが、馬鹿らしくなってしまった。
 晴さんのアドバイスと、『ホス狂い琴葉』の洞察力で、読者(みんな)がもし、このホストクラブに来たときの参考になるように、アドバイスをするからね。


「まず僕なんですが……。一応、このお店の代表です。少し頼りないですよね?」
 晴さんは照れくさい時に鼻を掻く癖があるようだ。そんな仕草を見ていると、胸がキュンッと締めつけられる。
「それでも姫たちからは、『王子様みたい』なんて言われています。僕、怒るっていうことができないんです。だから喧嘩もしたことがない。僕は、その姫の全てを受け入れてあげたいと思っています。こんなこと話すの、なんだか恥ずかしいですね」
 やっぱり鼻の頭を掻きながら、照れくさそうに笑う晴さん。 
 晴さんはキラキラと輝く王道の王子様タイプだ。きっと私たち姫を大切にしてくれることだろう。


「次は帝ですね。今ホストクラブでは売り上げのナンバーを付けないのですが、このホストクラブでの実質No.1は彼ですね」
「へぇ……。No.1は晴さんかと思っていました」
「いえいえ。僕なんて、彼の足元にも及びません。見てわかると思うのですが、彼は三毛猫です」
「三毛猫? 確か雄の三毛猫って、三千から三万匹に一匹の確立だった気が……」
 私はびっくりして、目を見開いた。まさかこんな所で、三毛猫の雄に会うことができるなんて思ってもいなかったから。
「帝は本当にイケメンなんです。彼の美しさはまるで絵画から飛び出してきたかのようです。ただ……」
「ただ? なんですか?」
「三毛猫だからでしょうね。プライドが高いんです。それに、ちょっと口が悪くて……。思ったことをすぐ口に出してしまいます。悪気は全くないんですけどね。でも人気№1なので、Kitty Cat(うち)の看板猫です!」
 なるほど、美形のクール系ってことね。でも、イケメンには会ってみたい! 
 そんな彼に、甘い言葉で口説かれたら……。きっと、私たちなんてイチコロでしょうね。


「次にYUKIです。彼は一見堂々としているように見えますが、実は神経質で繊細なんです。帝と同じで、ちょっと近寄りがたい雰囲気はあるんですが、一度慣れてしまえばとても仲良くしてくれますよ。それに彼はとても博識で頭がいいんです! そこも彼の魅力だと思います。ただ、恋愛にはちょっと奥手みたいですよ」
「そうなんですね」
「しかも彼はオッドアイなんです。あの瞳に見つめられると、吸い込まれそうになっちゃいますよ」
「オッドアイ……。素敵ですね!」
 なるほど……。
 YUKIさんはツンデレのインテリ系か……。
 恋愛には不器用だけど、好きになれば不器用なりに歩み寄ろうとしてくれるタイプかも……。その不器用さや一生懸命な姿に、キュンキュンしてしまうこと、間違いなしね。


「次は蒼月(アイル)です。蒼月の魅力は、なんと言っても黒猫特有のミステリアスな雰囲気です。普段一緒にいる僕でも、彼が何を考えているかがわからないくらいですから。でも本当に甘えん坊で、可愛いんですよ」
 ほうほう……。蒼月さんはミステリアスな小悪魔タイプね。しかも私より年下だから、甘えられたらすぐ好きになっちゃいそう!
 小悪魔タイプって何考えているかわからないけど、そこが魅力的よね……。
 悪い男に騙されてみたいって、どうしても思っちゃうのよ。


「次は騎士(ナイト)です。ふふっ。彼は完全にオラオラ系です。でも、本当は男らしくて、女性を引っ張っていってくれるタイプなので、彼はいい旦那さんになると思いますよ。一見チャラチャラしてそうに見えますが、根は真面目で、熱い男です」
「へぇ、頼りになりそうですね!」
「はい。僕もつい困ったことがあると、騎士を頼っちゃいます」
 ふむふむ……。
 彼はチャラ男&ワイルド系と見た。
 見た目がチャラ男で、いい加減に見えた相手が、自分との将来を真剣に考えてくれている、真面目で誠実な男性だった――。この設定はギャップ萌え№1ね。
 結局女は、リードされるのも好きよね? それに、案外グイグイ押されて、気付いたら相手のペース……。実はそういうのも好きだったりする……。


「次はKitty Catで最年少の蓮です。彼は所謂ワンコ系で、元気で人懐っこくて、明るい性格の持ち主です。学校でいうと、みんなの人気者タイプですね。僕も彼の素直さや、屈託のない笑顔が大好きなんですよ」
「本当に犬みたいで可愛いですね」
「はい。元気をもらいたい、ワイワイお酒を飲みたい方にはお勧めのホストです」
ヤバイ、年下ワンコ系……。このタイプを嫌いな女子っている?
 懐かれたら「好き!」って一直線に迫って来るタイプよね。
 想像しただけで可愛いじゃない!


「最後に星七(せな)です。彼はちょっと変わり種のホストですね」
「え? どういうことですか?」
「彼はホストなのに無口で、人見知り屋さんなんです」
「え? ホストなのに?」
「ふふっ。そうなんです。でも穏やかで、隣にいるだけでホッとするんです。彼の周りだけ、時間の流れがゆっくりというか……。彼自身もマイペースなので、癒されたい人には彼がお勧めです。でも、仲良くなるとよく喋るんですよ。ホストで遊び慣れている方に、是非お勧めのタイプですね」
 なるほど……。
 クールで無口なタイプ、か。ホスト慣れしていない女の子には、会話が続かなそうだから確かにキツイかもしれないわね。ホストクラブって楽しむために、わざわざお金を払って行っているのに、逆に姫が気を遣うなんてありえないわ。
 でも、きっと「放っておけない」っていう母性本能をくすぐるタイプよ。しかも、心を開いたら案外グイグイきそう。
 普段無口な人が、自分にだけ情熱を向けてくるなんて……。すごい優越感に浸れると思うわ。


「さて、姫。お時間になりました。ご決断を……」
 逃げ場のない問いを前にして、喉の奥がギュッとなるのを感じる。心臓の音が耳まで響いて、手の平にはじっとり汗が滲んだ。
 今私が選ぶこの一言で、これからの全てを変えてしまうかもしれない。
 こんなにたくさんのイケメンを前に頭を抱えるなんて、よく考えてみたら本当に幸せなことよね。
「よし、決めた!」
 私は心を決めて顔を上げる。
「私、決めました。晴さん、私が決めたのは……!」


1.誰とも会わずにこのまま帰宅する
⇒かしこまりました。気つけてお帰りくださいませ。またのお越しを、心よりお待ちしております。

2.晴と話をする⇒4ページへとお進みください。

3.帝と話をする⇒5ページへとお進みください。

4.YUKIと話をする⇒6ページへとお進みください。

5.蒼月と話をする⇒7ページへとお進みください。

6.騎士と話をする⇒8ページへとお進みください。

7.蓮と話をする⇒9ページへとお進みください。

8.星七と話をする⇒10ページへとお進みください。

9.決められないから全員とお話してみたい
⇒かしこまりました。このまま4ページへとお進みください。


「お話をしたいホストが決まったようで、よかったです。ホストとお話ができる時間は、一人十分程度です。どうぞ、楽しい時間をお過ごしくださいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それから、違うホストともお話がしたくなった場合、猫本までお戻りください。再度、ご案内いたしますので」
「わかりました。本当にありがとうございます」
「いえいえ。では、失礼いたします」
 そう言うと、晴さんはもう一度にっこりと微笑んでから部屋を後にする。
 晴さんがいなくなってしまった部屋は静けさに包まれ、私の心臓の音だけがいやに鼓膜に響き渡る。


 楽しみだけれど、すごく怖い。
 早く会ってみたいけれど、緊張して手が震えてしまう。


 私は写真指名したホストが部屋に入ってくるのを、スカートをギュッと力強く握り締めて待つ。
 ホストクラブの初回で、こんなに緊張したのは初めてだ。
 ドアの向こう側から近づいてくる足音を、呼吸をすることさえ忘れて数えてしまう。
 一歩一歩が、まるで私を責め立てる時計の秒針のように、重く、大きく響き渡る。
 ドアノブが静かに回る、その瞬間に備えて――。私は静かに息を潜めた。

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