いらっしゃいませ、お姫様 ―Kitty Catへようこそ―


「では、次に『猫本(ねこぼん)』の説明をしますね?」
「猫本、ですか?」
「はい。ホストクラブでいうところの『男本(おとこぼん)』のことです」
「へぇ……」
 私は青年からタブレットを手渡される。


 男本とは、ホストクラブで初回の客向けに提供されるものだ。そこには、そのお店に在籍しているホストのプロフィールと写真、情報が載っている。
 新規の客は、その中から数名のホストを『写真指名』して、短い時間を過ごすこととなる。
 写真指名をしたホスト以外とも話をする機会があり、その中から気に入った相手を『送り』に指名できる。


 送りとは、一番気に入ったホストに、店の出口やタクシーまで見送ってもらうことだ。短い時間ではあるものの、二人きりの時間を過ごすことができる。送りには、基本的に料金はかからない。
 更に、気に入ったホストをその場で本指名し『飲み直し』をすることもできる。飲み直しは、通常料金が発生するシステムだ。
 でも、そんな風に気に入ったホストを見つけることができることは『ホス狂い』にとって、この上ない喜びなのだ。


(男本の代わりが猫本なのね……)
 私はようやく納得することができた。


 タブレットを見ていると、はじめのうちは注意書きがあり、それに真剣に目を通す。ここをきちんと熟読しておかないと、思わぬところから高額な別料金が発生することがあるのだ。
 注意書きの次のページには、今まで私をエスコートしてくれていた青年の写真が……。
 彼の名前は(HARU)さんで、種類は茶トラとある。好きなものは、ピューレ状のおやつ……か。
 私は晴さんのあまりにも美し過ぎる宣材写真に、思わず見惚れてしまう。
(本当に、王子様みたい……)


「晴さんは内勤をやりながらプレイヤーもしているんですか?」
「はい。僕はこのホストクラブの代表なんです」
「え? 凄いですね?」
「いえいえ、とんでもない。なので、僕を指名していただいても大丈夫ですよ。なんてね……」
 そう言いながら、鼻の頭を掻く仕草までがかっこいい。


「もう、晴さん指名で‼」


 といいたいところをグッと堪えて、私は在籍しているキャストに目を通した。
 それから晴さんが丁寧に猫本の説明をしてくれた。
①名前
②年齢
③柄の種類
④性格
⑤身長
⑥好きな物
 の順に書かれているようだ。


 では、順番に猫本を見ていこう。
 激しく高鳴る胸を手で押さえながら、タブレットの画面に向かって指を伸ばした。
 心臓が喉元まで上がってきそうで、息もできない程の緊張感に包まれる。
 このタブレットをタップすると、どんな素敵な未来が私をまっているのだろうか? 
 何かが始まるのだろうか?
 私は期待に胸を膨らませながらタブレットをタップした。

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