ホストクラブの扉の向こう側は、まるで別次元だった。
私が今まで足繫く通っていたホストクラブとは比べ物にならない程、豪華な造りになっている。私は開いた口が塞がらなくなってしまった。
キラキラと輝く水晶の技形灯が天井から垂れ下がり、壁に豪華な織物が張り巡らされている。
店内に流れているのも、ズンズンと心臓を抉るような音楽ではなく、耳障りの良いクラシックが流れている。
でも――。
「あれ?」
店内に続く通路の脇には、普通のホストクラブでは高いボトルが綺麗に飾られている。そのボトルは何百万から何千万もするものもある。
いつも私は、一番安いシャンパンしか入れることができず、そういった高級なシャンパンや飾り(※見た目のインパクトやデザイン性を重視した特別なボトル。お洒落でテーブルの上に置いておくことが、その姫のステータスにもなる)は入れたことなんてなかった。
でもそんな棚に飾られていたのは、猫じゃらしやネズミのぬいぐるみ。パッと見た感じ高そうではあるけれど、私は違和感を覚えた。
しかし、青年はそんなことを気にする素振りなど見せず、私をVIPルームへと案内してくれる。VIPルームなんて勿論使ったことのない私は、緊張のあまり、嫌な汗が出てきてしまった。
「さぁ、姫。どうぞお入りください」
「……は、はい……。失礼します」
通されたVIPルームは、更に別格の空間だった。
高級な皮革のソファーが配置され、壁には名画が飾られている。カーペットは足を深く吸い込むような柔らかさで、心地よい感覚がある。
「では、お座りください」
「あ、はい」
促されるままに、洗練されたソファーに腰を下ろした瞬間、私は思わず飛び上がってしまう。こんな座り心地のいい椅子は、生まれて初めてだった。
泣き疲れた私は、このままソファーに身を委ね、眠ってしまいそうだ。
その時、私はふと我に返り、青年を見上げた。
「あ、あの、私今日そんなにお金を持っていないんですけど……」
「大丈夫です。初回料金は三千円となっております」
「よかった……」
担当に会いに行く予定だった私は、それくらいのお金は持ち合わせていた。
とりあえず私は胸を撫でおろす。
「でも私、シャンパンとか入れるお金の余裕なんてないですよ? 今まで通っていたホストクラブでも細客だったし……。そんな私でも大丈夫ですか?」
「ふふっ、その点はご安心ください」
青年は優しい笑みを浮かべながら、私にメニュー表を見せてくれる。
私はそれを見て、思わず目を見開いた。

「このホストクラブは、ただのホストクラブではなくて、『猫カフェ』の要素も含まれています。ですから、お酒を飲む……と言うより、僕たちと触れ合うことで癒されていただくといった感じのお店なのです」
「そうなんですね……」
私はメニュー表を見ながら、自然と口角が上がっていくのを感じる。
だって、猫じゃらし五百円、高価な猫じゃらし千円。ジャーキー千百円なんて書いてある。
このお店の見た目と、メニュー表のアンバランスさに、思わず笑みが零れてしまう。
(なんて可愛らしいお店なんだろう)
そんな私を見て、青年が更に説明をしてくれる。
「キャストの中でも人気なのが、カリカリタイプのおやつと、ピューレ状の長細い入れ物に入ったおやつです。カリカリタイプのおやつにも、いろんな味がありますし、煮干なんて変わり種もあります」
「へぇ……。なんだか可愛らしいですね」
「ただ、マタタビだけは十分に注意してくださいね。僕たちが酔っ払ってしまうので……。粗相をしてしまったら大変です」
「わかりました!」
マタタビについて、青年は真剣に説明をしてくれる。でも私は、失礼だと思いながらも、声を出して笑ってしまった。
「勿論姫には、アルコールやジュースもありますから、是非楽しんでくださいね」
「はい!」
青年の優しい対応に、尖っていた私の心が、少しずつ丸くなっていくのを感じていた。
(心地いいな……)
私は深く息を吸って、肩の力を抜いた。
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