いらっしゃいませ、お姫様 ―Kitty Catへようこそ―


 私が我に返った瞬間。そこは私が先ほどまでいた路地だった。
 先程まで私の世界を彩っていたシャンパングラスの輝きも、甘い甘い囁きも、扉一枚隔てた瞬間に消え失せた。
 さっきまで降り続いていた、雪だって降っていない。


 背後を振り返っても、そこにはただの無機質な壁があるだけで、魔法の国への入り口なんてどこにも見当たらない。
 私はただ、吐き出されたように冷たいアスファルトの上に立ち、街の騒音に飲み込まれていく。
 先程までの体温が、嘘のように指先から逃げていった。


 でも私は、彼らに会い、かけがえのない体験をした。
 そして私は学んだんだ。


 他人を、心から大切にする優しさ。
 傷ついた人を、優しく包み込む包容力。
 遊びを通して、お腹から声を出して笑う楽しさ。
 そして、愛や優しさは、決してお金では買えないということ、を。


 高いシャンパンを入れて担当が喜んでも……。それで被りが悔しがったとしても、そんなことはもうどうでもいい。
 私は、お金では買えないものをたくさん教えてもらったから。
 今は真夜中だけれど、心の中は晴れた日のように清々しくて、気持ちがいい。
「みんな、ありがとう」
 最後にもう一度だけ振り返って、お礼を言う。でも、振り返るのはこれで終わりにしよう。そう、心に決める。
「よーし、明日からまた仕事を頑張るぞぉ!」
 私は大きく伸びをする。
 そして、軽やかな足取りで、駅へと向かったのだった。


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