「やっぱりオレを送りに選んでくれたのか?」
「はい! だって私、騎士さんから元気を分けてもらいたくて」
「おー! いくらでも分けてやるよ」
「ありがとうございます」
私が送りに選んだのは騎士さんだった。
どうして騎士さんを選んだかと言うと、ただ単に元気を分けてもらえるから。彼の傍にいると、自分の悩みがちっぽけに思えてくるから不思議だ。
先程みたいに、騎士さんの耳と尻尾がピンと上を向いている。ただそれだけで、私も前向きな気持ちになれるような気がした。
「さっきの煮干しを食って、元気になったか?」
「はい! あの煮干しの威力は凄いですね!」
「だろう?」
騎士さんの耳はいつもピンと立ち上がり、尻尾も自信に満ち溢れてるようにユラユラと揺れている。
その姿は、猫ではなくまるで獅子のようだ。
「悲しいことも寂しいことも、煮干しを食って、酒を飲めば全部忘れられるからさ! まぁ、人生気楽に行こうや!」
「あははは! なんですかそれ?」
「んん? ありがたい騎士様のお言葉だよ」
それを聞いた私は、声を出して笑ってしまった。
確かに、騎士さんと煮干しを食べてから元気になったのは事実だ。
彼に会って、こうやって陽気に楽しく生きていく、ということを学んだ。
「担当のこともさ……」
「え?」
騎士さんが急に真面目な顔をしたから、私は彼の顔を見上げた。
空からはヒラヒラと雪が舞い降りてきて、薔薇園を白く染めていく。
(こうやって見ると、騎士さんってイケメンなんだなぁ)
私は少しの間、騎士さんの整った横顔に見惚れてしまった。
「そんな馬鹿な男のことなんか忘れちまえよ。日本には、数えきれない程のホストがいる。何もそいつにこだわる必要なんかないだろう? 過去を振り返るのは、もうお仕舞にするんだ」
「騎士さん……」
「まあ、オレみたいないい男は、めったにいないだろうけどな。あはははは!」
ニヤリと笑ってから、また豪快に笑う。
そんな騎士さんを見ていると、「まぁ、人生どうにかなるかな?」なんて、気持ちが楽になるから不思議だ。
「じゃあ、そろそろお別れの時間だ」
「え? もうですか?」
「あぁ」
いつも俺様で、自信満々な騎士さんの口数が少しずつ減っていく。
騎士さんの顔に、寂しさが滲んでいることを、私は感じていた。
あんなに元気よく上を向いていた耳と尻尾も、心なしか垂れ下がって見える。
どんなに強がって元気なフリをしても、「私との別れを寂しいと思ってくれているんだ……」ということが伝わってくる。
最後くらい、元気にお別れをしたかったな……。なんだか切なくなってしまった。
「じゃあ、行きますね」
「あ、ちょっと待てよ」
私が騎士さんに背を向けようとしたとき、突然手を掴まれた。私がびっくりしていると、もう一度手を握り締められる。
力は籠っていない。むしろ、何かを失うのを恐れる子どものような、弱々しい力だった。
いつもの力強い視線はどこかへ行き、ただ下を向いている。
その伏せられた瞳が、どれだけこの別れを寂しいと感じてくれているのかを、雄弁に物語っていた。
「やっぱり行くなよ」
そう呟いた声は、いつもの元気な声ではなく、微かに震えていた。その弱さに、私の胸は締め付けられる。
「ったく、こんなのオレらしくないよな? 笑っちまうぜ」
「騎士さん……」
「ほら、気を付けて帰れよ」
いつものように不敵な笑みを浮かべた騎士さんに背中を押された。
そこにいるのは、私が知っている騎士さんだった。
「はい。では、また」
私は騎士さんに背を向けて歩き出す。
騎士さんからはたくさんの笑顔と勇気をもらった。
感謝してもしきれないよ。
最後にそっと振り返ると、いつも見たいに元気に笑う騎士さんがいた。
私に向かい「もう悪い男には引っかかるなよ!」と手を振ってくれている。
最後の最後まで、もう笑っちゃうよね……。
(でも騎士さんの言う通り、もう振り返るのはよそう)
私は騎士さんに手を振って、一歩、また一歩と歩き出す。
(今度は、絶対に振り返らない)
さよなら、騎士さん。
さよなら、Kitty Cat――。
私は扉を開けて、外の世界へと、その一歩を踏み出した。
ここまで読まれた方は、エピローグ1まで進んでください。
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