「蓮君かぁ……。二十一歳! 若い! きっと可愛いだろうなぁ」
私の期待はどんどん膨らんでいく。
その時、遠くから走って来る音が聞こえてくる。
「え? なに?」と思った瞬間、勢いよくドアが開き、元気いっぱいのホストが入ってきた。
彼の笑顔は太陽のように輝き、部屋の隅々まで照らし出した。
服装はパステルカラーで、可愛らしいアクセサリーが身に纏わりついていた。
彼の存在で空気はほどけ、まるで魔法のような雰囲気が部屋中に漂った。
ハチワレの猫のようだ。真っ黒な耳がピンッと立ち、黒い尻尾が楽しそうに揺れている。
「姫、お待たせしました。ぼくの名前は蓮。去年二十歳になって、ようやくお酒が飲めるようになったんだよ」
「そうなんだ? 蓮君若いね!」
「そんなことないよ。姫だって若くて綺麗だよ」
「ちょ、ちょっとやめてよ」
突然イケメンに綺麗なんて言われたら恥ずかしくなってしまう。
しかもいきなりタメ口できたものだから、まるで昔から知っている友達のように感じられた。
蓮君は前髪が真ん中から綺麗に分けられていて、本物のハチワレ猫みたいだ。
無邪気な子どもみたいな蓮君を見ていると、私まで元気になってしまう。
すると、突然蓮君が人差し指を一本立てて、急に真面目な顔をする。そんな蓮君を見た私は、思わず背筋を正してしまった。
「突然ですが姫、ここでクイズを出します!」
「え? あ、はい!」
私がびっくりしていると、蓮君がにっこりと微笑む。
その笑顔が可愛くて、思わず「もう、食べたいちゃい!」と胸がキュンと締め付けられた。
蓮君の笑顔を見ていると、元気に咲いている向日葵を見ているようだ。私が笑顔で「いいよ、クイズやろう」と言うと、「ヤッター!」と喜んでいる。
一体どんなクイズだろうか? なんだかワクワクしてしまう。
「では問題です。僕はハチワレ猫なのですが、一般的に言われているハチワレ猫の性格は次のうちどれでしょう?」
A.陽気
B.短気
C.人見知り
「さてどれでしょうか?」
蓮君からどんなクイズを出されると思ったら、なんだ、こんな問題かぁ……。
こんなの簡単よ! だって今までの蓮君を見ていれば、一目瞭然だもの。私は自信満々に答えたわ。
「ハチワレ猫の性格は、Aの陽気です」
「わぁ! 大正解だよ! ハチワレ猫は一般的に陽気、明るい、フレンドリーなんて言われてるよ」
「そうなんだね! 蓮君にぴったりじゃない?」
「でしょでしょ? だから仲良くしようね」
「うん」
蓮君の笑顔は、真夏の太陽に向かって咲く向日葵のようだ。その明るさが、私にエネルギーを分け与えてくれているように感じられる。
もしかしたら、私の緊張をやわらげるために、わざわざこんな質問をしてくれたのかもしれない。
そんな優しい姿に、また胸が締め付けられた。
「ねぇ、姫、ぼくと遊ぼうよぉ」
「え? ホストクラブで何して遊ぶの?」
「だって、ぼくは姫にここで楽しい時間を過ごしてほしいんだもん」
蓮君、なんて可愛いの……。
その透き通るような笑顔に、今までの自分がどれほど汚れていたかを思い知らされたような気がして……。罪悪感に襲われてしまった。
「ねぇ、姫。ついでにぼくの好きな物覚えてる? もしよければプレゼントしてもらえるかな?」
「蓮君の好きな物?」
「うん! 次の三つの中から選んでね」
A.通常のピューレ状のお菓子
B.通常のカリカリ
C.通常の猫じゃらし
「ねぇ、覚えてくれてる?」
蓮君は不安そうな顔をしながら、私の顔を覗き込んでくる。そんな子どもみたいな仕草も、とても可愛らしい。思わず、母性本能をくすぐられてしまった。
(蓮君は素直で可愛いなぁ……)
私は普段年下のホストは指名しないけれど、彼は特別。だって、本当に可愛らしいんだもの。こういう若いホストを、自分好みに育てていくのも、悪くないかもしれない。
でも大丈夫。私は蓮君の好物をちゃんと覚えていたから。
「蓮君が好きなのは、Cの通常の猫じゃらしだよね?」
「うん! 大正解! 覚えててくれたんだね? 嬉しいなぁ」
蓮君は私に向かって微笑んだ。真っ黒な尻尾が嬉しそうに揺れている。
その笑顔が真夏に咲く向日葵のようで、とても眩しい。
汚れてなくて、素直で優しくて……。こんな感じの子がホストをしているなんて、ちょっとだけ意外だった。
私は硝子の瓶から猫じゃらしを取り出し、蓮君の前でユラユラと揺らして見せる。その瞬間、蓮君の瞳がパアッと輝く。きっと、猫じゃらしにじゃれたくて仕方がないのね。
もう、本当に可愛い!
「蓮君、蓮君、こっちだよ!」
「えぇー! ちょっと待って」
「嫌だ、待たないよぉ」
「姫の意地悪ぅ!」
猫じゃらしをユラユラ揺らすと、蓮君がそれに向かって走って来るから、私はそれを夢中で避ける。
気が付いた時には、ソファーから立ち上がり、二人で部屋中を追いかけっこしていた。
私が猫じゃらしを揺らしながら「おいで」と呼ぶと、蓮君が嬉しそうな顔をしながら走って来る。
蓮君の耳はピンと立ち上がり、猫じゃらしに狙いを定めるために、お尻をフリフリと振る。それから勢いよく飛びついてくるんだけれど、その姿も可愛らしい。
追いかけっこが楽しくて、二人で声を出して笑っちゃった。
「捕まえた!」
「あー、捕まっちゃったか……」
「ふふっ。ぼくの勝ちだね」
猫じゃらしを持つ私の腕にしがみつきながら、蓮君が嬉しそうに笑う。
ホストクラブは高級な飲食店だから、こんな風に走ることなんて絶対にない。そんなあり得ないこの状況が、とても楽しかった。
「あーあ、猫じゃらしボロボロだね」
「そうなんだ。ぼくが遊ぶといつもこうなっちゃう。だから、高級な猫じゃらしはいらないんだ」
「ふふっ、本当だね」
二人で顔を見合わせて笑う。
でも、本当に楽しかった。
その時、遠くからチリンチリンとベルが鳴る音がする。それを聞いた蓮君が、「あー、もう時間かぁ」とガッカリしたような顔をした。
そんな顔をされたら「バイバイ」ができなくなっちゃうよ、と私まで寂しくなってしまう。
「もう十分経ったみたいだね。ぼくとの時間は、これでお仕舞だよ」
「え? もう? 私、もっと蓮君と一緒に遊びたかったなぁ」
「それは、ぼくも同じだよ。ぼくも、もっともっと姫と遊んでいたかったもん」
「本当に?」
「本当だよ。だって、ぼく、超楽しかったんだから」
その瞬間、蓮君の顔から笑みが消える。
初めて見る蓮君の真剣な表情に、私は一瞬で彼に心を奪われてしまった。
そして蓮君に突然両手を掴まれ、私は顔を覗き込まれる。
「ぼくを『送り』に選んでよ。だって、ぼくずっと姫と一緒にいたいもん!」
「蓮君……」
「ぼく、次はもっともっと姫を楽しませてみせるから……。お願い、ぼくを送りに選んでね」
「そんなに楽しかった?」
「うん! すごく楽しかった!」
きっといつも誰にでも裏表なく、太陽みたいに笑っている彼が、ふと口を閉ざして私を見つめた。
少しだけ視線を落として、子どもが宝物を差し出すみたいに、私の洋服の袖をギュッと掴む。
「ねぇ、本当に楽しかったから、ぼくを選んでね! 約束だよ!」
その飾らない甘えた声に、私の心は一瞬で蓮君の色に染まってしまった。
「ごめんね、めそめそして。じゃあ、またね! バイバイ!」
蓮君は少し寂しそうな笑みを浮かべながら、部屋を後にする。
急に静かになってしまった部屋に、私は寂しさを感じずにはいられない。
でも、蓮君に会えて、心の中がポカポカと温かくなった。
では姫、この後はどうされますか?
1.他のホストには会わずこのまま帰る⇒気をつけてお帰りくださいませ。またのお越しを心よりお待ちしております。
2.他のホストには会わず、蓮を送りに指名する⇒18ページに進んでください
3.次のページの星七と話をする⇒10ページに進んでください。
4.もう一度会うホストを決めたい⇒猫本のページへお戻りください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



